第6話 ライブハウス

放課後、俺たちは藤永先生に連れられて、練習場所へと向かっていた。


「どこ行くんだろ?」

「さあな」


学校からしばらくバスに乗り、街から少し離れた場所にそれはあった。



「ライブハウス!?」


目の前の看板にはライブハウス「MAD SHOT」と書かれている。

小さめのその建物は、俺たちが憧れたライブハウスそのものだった。


「入るぞ」


藤永先生を先頭に重い扉を開き、恐る恐る中に入る。受付を抜けると、ステージが目に入った。


「すげえ!!」

「本物だ」

「ライブやりたい!!」


口々に騒ぐ俺たちを、やれやれといった顔で見つめる藤永先生。

そこへ、一人の男性が近寄ってきた。


「こんにちは。店長の藤永晴也ふじながせいやです。いつも、陽也がお世話になってます」

「違えよ。俺がお世話してんの」

「そう?ってか、陽也、本当に教師になったんだな」

「何がおもしろいんだよ」


「こんにちは!ふじやんの、お兄さん?」

「そうだよ。双子の兄です。なあ、お前、ふじやんって呼ばれてんの?」

「いいだろ、別に」

「いいけどさ」


ライブハウスをぐるりと見渡し、感慨深げに見つめる藤永先生。


「ここ、晴也が作ったライブハウスなんだよ」

「作ったの?すごい!!」

「自分たちでライブハウスを作るのが夢だったんだ」

「俺も手伝ったけど、すげえ大変だったんだぞ」

「その節はありがとう」


藤永先生の双子の兄・晴也さんは東京の音響関係の専門学校を卒業した後、地元に戻って、仲間たちと協力して憧れのライブハウスを作り、現在はここでライブハウスの店長をしている。


「みんなは軽音楽部?」

「はい!晴也さんも軽音楽部だったんですか?」

「そうだよ。俺がベースで、陽也がギター。同級生の女の子がドラムで、スリーピースバンドを組んでたんだ」

「何の曲やってたんですか?」

「ハイスタとかスネイルが多かったかな?」

「1月に出たスネイルの新譜、聞きました?」

「聞いた、聞いた!相変わらず、かっこいいよね」

「やばいですよね!!」


ひとしきり盛り上がった後、俺たちはステージに上がらせてもらうことになった。


「うおー…何この景色。やっば!!」

「すげえ…」

「ライブになったら、もっともっとやばいよ」



それぞれの想像の中で、いつか立つ憧れのステージを夢見ていた。



「俺、ここでバイトしたい」

「えっ、バイト?俺も!!」

「ずりいぞ、俺も」

「バイトか…今月で大学生のバイト君が2人辞めちゃうし、清掃とか手伝ってもらいたいこともあるから、お願いしちゃおうかな?」


「やった!!ありがとうございます」

「ただし、親御さんと学校の許可は必ず取ること」

「はい!!」


晴れて、俺たちはライブハウスでバイトをさせてもらえることになった。



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