第4話 新メンバー
「7組に帰国子女がいる」
そんな噂が聞こえて来たのは6月のことだった。
帰国子女。よくわからないが、かっこいい響きだ。
「楽器も色々弾けるんだって」
何だそれ、すげえ。
俺は早速、7組に乗り込んだ。
教室の中に噂のやつはいた。一人、静かに本を読んでいる。
俺は、前の席に跨るように座り、顔を覗き込んだ。
整った顔立ち、いかにも女子にモテそうな感じだ。
「なあ、楽器弾けるんだって?」
最初に、俺が話しかけた言葉に返答はなかった。聞こえなかったのかもしれない。
「なあ、楽器…」
「聞こえてる」
聞こえてるなら、返事くらいしろよ。と思った言葉がそのまま口に出ていた。
「聞こえてるなら、返事くらいしろよ」
「今、本読んでる」
それもそうだな、 と思った。
「バンドに入ってほしいんだ」
あらためて本題を口にする。
バンド、という言葉を聞いた瞬間、やつはバッと顔を上げた。
「バンド?」
「そう、バンド。楽器弾けるんだろ?」
「弾ける」
「何、弾けるんだ?」
「チェロとピアノとベース」
「ベース?マジかよ!!」
思わずガタッと席を立ち上がった俺は、やつに握手を求めていた。
困惑しながらも、手を握り返すやつ。
「名前、何ていうんだ?」
「
「よろしくな、岸田!」
意気揚々と7組を出たところで、名乗り忘れたことを思い出したがもう遅かった。
はやる気持ちを抑えて、俺は屋上の扉を開けた。
「ベースが見つかった!」
俺の言葉に、一斉に視線が集まった。
「マジ?誰?」
「7組の岸田。帰国子女の」
「わかんねー」
「ピアノも弾けるって言ってた」
「すげえ!」
「これで、ライブできるね」
それから、数日。待てど暮らせど、岸田は屋上に現れなかった。
ついに痺れを切らした俺は、再び、7組に乗り込んだ。
「何で、屋上に来ないんだよ?」
「は?屋上?」
「とぼけんなよ。バンドに入ってほしいって言ったろ?」
「聞いた。でも、名前も練習場所も聞いてない」
しまった、と思った。これは完全に俺が悪い。
「悪い、言ってなかった」
「いいよ」
「俺は4組の近江快都。俺たちは軽音楽部で、いつも昼休みに屋上で練習してるんだ。岸田にも来てほしい」
「わかった」
意外と物分かりの良いやつだな、と思ったが、次の昼休み、岸田はやっぱり現れなかった。
「何で、来ねえんだよ!!」
すっかり7組の常連となった俺は、教室に着くなり叫んだ。
岸田は自分の机に突っ伏して昼寝していた。
「なあ、起きろよ、岸田」
何度も揺さぶったが、岸田は一向に起きる気配がなかった。
何だよ、何なんだよ…。
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