第3話 歌声
それから、俺たちは昼休みになる度に屋上へ向かった。
三上先輩は時に迷惑そうに、時に嬉しそうに出迎えてくれた。
毎日いるわけではなかったが、屋上で会える日が楽しみだった。
ただ、マジで授業に出てない上にテストも受けていないらしいので、 勉強はさっぱりわからないそうで、このままじゃ永遠に留年し続けるんじゃないかと下世話な心配もしたが、本人はどこ吹く風といった様子だった。
屋上に入り浸るようになって1ヶ月が過ぎた。
相変わらず、俺たちは適当に集まっては自由に楽器を弾き、くだらない話をしては笑い合っていた。
「先輩、俺、ライブがやりたいです」
「いいんじゃね?」
「いや、けど、ボーカルもベースもいないじゃないですか」
「近江が歌えよ」
「いいですけど、ベースは?」
「俺がやる」
「先輩、アコギしか弾けないじゃないすか」
「うるせえよ」
この頃、ライブをやりたい欲求がどんどん高まってきていた。
その気持ちに反して、新メンバーは増えず、相変わらずの日々だった。
5月のある日、いつものように屋上に上がると、そこに三上先輩はいなかった。
代わりに、歌声が聞こえてきた。
誰だ…?
逆光に目を凝らすと、そこには小柄な男子が立っていた。
「あっ、ごめん。勝手に入ってきちゃった」
「いや…。さっき、歌ってたのって」
「俺だよ、歌が好きなんだ」
多分、同じ1年生だろうその彼は、屈託のない笑顔でそう言った。
「1年生?」
「うん、1組の
「俺らも1年。4組の近江快都と仲原昂。よろしくな」
「よろしく!」
「なあ、バンドって興味ある?」
「バンド?」
きょとんとした表情を浮かべる宮村。
「ボーカルになって欲しいんだ」
「えっ、俺が?ボーカル?」
「そう」
「でも、やったことないし」
「歌うのは好きなんだろ?さっき、歌ってた歌って…?」
「175Rの和って曲」
「イナゴ…?」
「インディーズのバンドだよ。2月に出たアルバムでめっちゃかっこいいよ!聞く?」
「聞きたい!」
それから、僚一がインディーズバンドが大好きなこと、おすすめのバンド、いつも学校にMDプレイヤーを持ってきていることなどを教えてくれた。
「宮村って、本当に音楽が大好きなんだな」
「ライブはまだ行ったことないけどね」
「じゃあ、俺たちでやろうぜ。ライブ」
「えー?」
「175Rの曲、コピーしてライブやるんだよ」
「めっちゃ楽しそう!ねえ、MONGOL800もやりたい」
「いいな!何やる?」
「夢叶う、やりたい」
「いいじゃん」
「ゴイステもやろうよ」
「おー、ゴイステ!けど、何やる?」
「やっぱ、東京少年だろ」
「俺は銀河鉄道の夜がいいな」
「うわ、どっちもやりたい」
「さくらの唄、名盤すぎんだよなあ。迷うわ」
それからも、毎日、俺たちは屋上に集まった。
ベースはまだいなかったけど、ライブのことを考えるだけでたまらなく楽しい気分になった。
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