第2話 屋上の主


「誰だ、お前ら」


屋上へと続く扉を開いた瞬間、目の前に立ちはだかった“主”は威圧感のある口調で言った。思わぬ登場に、心臓が止まるかと思った。


「1年の近江快都と」「仲原昂です」

「何しに来た?」

「いや、何ってことは…」

「用もないのに来たのか?」


ギロリと睨まれ、思わず怯みかける。

ここで引き下がっちゃダメだ。


「あの、軽音楽部について何か知りませんか?廃部になったって聞いて…」

「廃部?俺が唯一の部員だが、廃部になったなんて聞いてない」


体が大きい割には痩身で、3年にしては妙な貫禄を纏った主は訝しげに首をひねる。


「あ、あの…あなたは、3年生なんですか?」

「3年?そうだな。もう3回目だが」


何歳だよ、と内心思った。留年しすぎだろ。


「何でそんなに…」

「授業に出てないからな。大体、ここで寝てる」

「そうすか…」


会話が途切れる。気まずさ以外の何物でもなかった。



「軽音楽部に入りたいのか?」


少しの沈黙の後にそう聞かれて、思わず言い淀んでしまった。確かに入りたかった。少なくとも、ここに来るまでは…。


「特別に、入部を許可してやってもいいぞ」


やった!って、あんたが許可すんのかよ。


「ありがとうございます。それで、あの、活動とかは…」

「好きにしろ」

「えっ。あの、練習とか、ライブとかは?」

「やりたきゃやればいいだろ」


放任主義かよ。あー、もう面倒くせえ。

俺が切れそうになっていることに気付いた昂が、すかさず話題を変えた。


「先輩の名前を教えて下さい」

三上歓太朗みかみかんたろう

「いい名前ですね」

「適当なこと言うなよ」


三上先輩の口調はそっけなかったが、どことなく嬉しそうにも見えた。


「先輩は、何の楽器やってるんですか?」

「ギター。お前らは?」

「俺がギターで、昂がドラムです」

「そうか。俺はアコギしか弾かねえけどな」


そう言って、おもむろに近くにあったギターを掴み、弾き始める三上先輩。


上手い。この人、マジで何者なんだ?


「何だよ、変な顔すんなよ」

「あ、いや、すいません」


フッと笑い、でもどこか満足げな表情を浮かべる。

変だけど何だか気になる人だなと思った。


昼休みの終了を告げるチャイムが鳴り、俺たちは教室へと戻った。

変な夢でも見ている気分だった。




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