素顔のトモ君が超イケメンだった件について

ありま氷炎


「えっと、どちら様?」


 シャワーを浴びて出てきたら、そこにいたのは、超イケメンだった。

 奥手なトモ君に合わせて、キスも付き合ってから1ヶ月。

 そして2ヶ月後の今日、いよいよレクチャーしてあげようと、ホテルに誘われるように諮った。

 酔ったふりをして、体を密着させ、ちょっと休憩したいと囁く。付き合ってから色々教えてあげたから、その意味はわかってるはずだ。

 黒髪もさ男の黒縁メガネのトモ君だったとしても。


 思惑通り、近くのラブホテルにトモ君は私を連れて行く。

 シャワーを先に浴びるねと、気分が悪いはずの私が言うものなんだけど、そう言って、シャワールームに入った。だってベトベトしているのは好きじゃないし、いい香りを漂わせたほうがいいでしょ?

 十分に体を洗い、しっかりとメイクした後、出てきたらそこにいたのはトモ君じゃなくて、超イケメンだった。


「いやあ、笑えるわ。シャワー浴びてもばっちりメイク。すっぴんも見せれないくらいブスなの?」

「は?」

「いや、あいつが女を教えてくれた女神とか言っていたけど、普通じゃん。いや普通以下?」

「え、は?」


 なんか意味わからないけど、けなされている?私、普通以下とかひどい!


「傷ついた?お前だって、ひどいだろ。俺が童貞のオタクだと思ってさ、バカにした態度で。あいつは女神とか言っていたけど、ありえねー」

「えっと、失礼ですけど、あなた誰?さっきから失礼なことばかり!」

「わかんないの。俺、トモ君だよ」

「えええええ??」


 は?こんなイケメンがあのトモ君と一緒なの。

 っていうか顔もだけど、雰囲気も全く違うし、トモ君はこんな口悪くない!声が一緒だけど。


「あのさ、俺、眼鏡してメイクしてたの。落としてさっぱりだよ。ああ、2ヶ月間辛かったわ。今日で終わろうぜ」

「え、なに?」

「この2ヶ月、あんたの女神っぷりを見ていたけど、全然わからんかった。だからさあ、素顔をさらすことにしたの。好きでもない女とやるのも嫌だし」

 

 トモ君だったイケメンはバスタオル姿の私に背を向けると、さっさと部屋を出て行ってしまった。

 お金も払ったし(私持ちだった!)

 だから、もったいないから一人でラブホで夜を過ごすことにした。


「うけるわ!」


 なんか眠れなくて友達の麗子にその話をしたら爆笑されたけど、その後にまあ、当然の報いと言われた。

 

「いやなんで?」

「だって、あんたの態度なんかひどかったわよ。彼氏を見下すってどうなのよ。まあ、確かにもてない男とばっかり付き合っていたけど、なんか付き合ってあげてるって感じで見ていて最低だったし。まあ、トモ君よくやったって感じ?」

「なによ。それ!私達、友達でしょ」

「友達よ。だから言ってあげてるの。これに懲りて変な理由で彼氏を作るのをやめなさいよ。相手に失礼よ」


 麗子はそれだけ言ってスマホを切ってしまう。

 私は悔しくて、スマホをベッドに放り出して、何か飲もうかと禁断の冷蔵庫を開けた。ワンカップのお酒が入っていて、私は強くもないのに、それを全部飲んでしまった。そしたら気持ち悪くなって、トイレに走り、気がつくと意識を失っていた。


 次に目を開けると超イケメンが視界に入ってきて、思わず体を起こす。すると馬鹿なことに彼の顎が私の頭にあたり、私たちはお互いぶつけた箇所をかばって、唸る。


「な、なんで急に起きるんだよ。馬鹿やろう!」

「って、っていうか、なんであんたがここにいるのよ!」

「忘れ物して戻ったらトイレで気を失っていたから、ベッドに運んだだけだ。感謝しろよ!」

「あ、ありがとう」

 

 口は悪いが、このイケメンはトモ君の優しさを少し持っていた。

 本当あの優しいトモ君がこいつを一緒なんて思えない。

 こんな顔だけの男!

 昔からイケメンは嫌いだった。だって、性格悪そうだし。なんか軽そうだし。だから、かっこ悪いけど優しい人を選んでつきあってきた。麗子はああいったけど、私ってそんな見下した態度してたのかな。


「なんだよ?」

 

 少し気になって、この性悪イケメンに確かめることにした。


「あのさ、私って、あんたを見下していた?」

「ああ。付き合ってあげてる、感謝しなさいって最悪だったな。従兄弟がお前と付き合っていたことが信じられない。なにが女神だ」


 本当だったんだ。

 そんな風な態度、意識したことなかったのに。

 っていうか、その従兄弟って誰?


「あの、従兄弟って誰?」

「雅夫だよ。マサ君」

「マサ君?ああ!」


 一条雅夫くん、マサ君。

 なぜか私と付き合っていくうちに、かっこよくなっていった人。そのうち、なんかかっこよすぎて別れてしまった。

 イケメンは怖い。なんか緊張するし。

 泣きながら別れないでって言われたけど、その泣き顔もかっこよくて、これはダメだと思った。

 えっと、そのマサ君が私のことを女神だって?

 なんで?


「腑に落ちない顔をしてるな。俺もそう。だけど、ちょっとわかった気がしてきた。悔しいけど。すっぴんのほうが可愛いのな」

「は?え?」


 性悪イケメンはそう言いながら、私の頬に触れる。

 いや、なに?

 こいつ、私のこと嫌いっていってなかったっけ?


「うーん。本当に女神なのか、確かめたくなった。いい?」

「は?」

「だって、その気だっただろう。俺も今はそういう気分だから」

「お断わりします。誰があんたなんかと」

「なんで、俺こんなにイケメンなのに?」

「ああ!触るな!」


 イケメンは嫌い。

 私が好きなのは優しいブスメンだ!

 

 部屋から性悪イケメンを追い出し、内から鍵をかける。

 そうして私はどうにかイケメンを追い出したのだけど、数週間後付き合うことになった。

 イケメンが嫌いと言い続け、彼はトモ君に戻ってくれた。

 だからこそ付き合うことができている。

  

 イケメンは怖い。

 これは私の変わらぬ主張だ。


 

 

 


 

 

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