4話

* * *


~回想~


「こら、年下を泣かせるんじゃありません。みんなに優しくしないと立派な剣士にはなれないわよ」


 その時、初めて施設で怒られた。シスターたちはみんな、俺の目付きが怖いと言って、会話もしないし、目も合わせようとはしなかった。

 でも、師匠は違った。こんな俺を叱ってくれた。それだけで心が救われた気がした。

 

 俺は泣かせた子供に謝罪をした。それに今まで理不尽に八つ当たりしてきた子供にも同じように謝った。


 それから師匠はたまに施設に来て、俺の相手をしてくれた。一緒に食事をしてくれたり、他愛無い会話をしたり、剣の稽古に付き合ってくれたり。そんな日々を送ってる内に俺は師匠に惹かれていった。


 当時の俺はまだ幼かったから、「時々、施設に遊びに来るお姉さん」としか思っていなかった。

 だけど、しばらくして、お姉さんの正体が気になって勇気を振り絞ってシスターに聞いた。

 すると「千歳さんはこの施設にいた方ですよ」と言われた。


 衝撃を受けた。だって、俺と同じには見えなかったから……。どうして、あの人はそんなに優しく出来るのだろう? しかも平等に。ホントすごいな。


 それから何年か経ったあと、俺は「剣の師匠になってください」と志願した。もちろん、師匠を守るためだ。好きだから守る。だけど、その願いは叶わなかった。

 師匠には既に恋人がいて、結婚を誓った仲だと知った時から、俺は師匠に対する想いを隠し続けた。


 その時、師匠のいつも言っている言葉の意味がわかったんだ。あぁ……。守るべき人がいるから強くなれるんだな、と。

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