2話

 それは師匠には愛する人がいて、もうすぐ嫁に行ってしまうからだ。今は恋人と同棲中らしい。だから日が沈む頃には恋人の住む家に帰らなくてはいけない。


 因みに師匠も俺と同じ孤児院の施設にいた。

 だからか、親がいない俺の気持ちを痛いほど理解してくれる。今の恋人とは孤児院で出会ったらしく、15になると同時に二人で住むことにしたと以前聞いたことがある。


 師匠も師匠の恋人も18になったらすぐに魔獣狩りに行くことを志願した。二人とも実力があったため、今まで大怪我をしたことがないらしい。

 それは俺にとっても安心だ。師匠に何かあったら、俺も心配になるから。今日は休日らしく、俺の稽古相手になってくれた。


 数ヵ月ぶりに会う師匠は、前に会った時よりも女性らしくなったと思う。胸下まであった黒髪も今では腰まで伸びている。


「導は来年から本格的に魔獣狩りね。前に会った時よりも格段に強くなったし、これなら一人前の剣士になれるかもしれないわね、ふふっ。それにしても大分、身長も伸びたんじゃない?」


 そう言って、師匠は優しく俺の頭を撫でた。


「身長は前よりも伸びて、178cmになりました。師匠のお陰で一人前の剣士になれそうです。いつも、ありがとうございます」


「あら、出会った頃はかなり小さかったのにいつの間にか追い抜かれてしまったわね。って、どうして敬語なの?」


「あ、いや……別に」


「変な導ね。今日は私も楽しかったわ、ありがとう。じゃあ、また明日ね」


「ああ、また明日」


 師匠は帰路のほうへと足を進めた。「また明日」っていうのは師匠の口癖の一つのようなものだ。


 師匠曰く“また次の機会にだといつ会えるかわからなくなりそうでしょ? だから、また明日なのよ”だそうだ。たしかに言われてみれば、「また次の機会に」だと少し寂しい感じもする。


「あ、そうだ。導」


 師匠は足を止め、こちらを振り返り、こう言った。

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