第四章 霜天の孤影(四)
当時の東嘉宮を思いうかべると、幼い頃目にした芝居小屋の光景がかさなります。ああいったものをご覧になったことはありませんでしょう? それがよろしゅうございますわ。お世辞にも品がよいものとは申せませんからね。
わたくしも、芝居小屋には近づくなと、その頃はまだ健在だった両親にきつく言われていたのですが、禁じられるほど好奇心がうずくというもの。ある日、近所の子らとこっそりしのびこんだのですよ。
小屋のなかは金と朱のけばけばしい飾りに埋めつくされ、くらりとするような濃密な香がただよっておりました。つめかけた大人たちが食い入るように見つめる先、暗い屋内のそこだけ明るい壇上で歌い演じる芸人たちの姿は、子どもの目にもひどくいかがわしいものに映りましたわ。
宏基殿下の宮は、あのときの芝居小屋によく似ておりました。宮は広く、おかれた調度はどれもため息がでるような豪華さでしたが、わたくしには、なぜだかそれらすべてがまがいもののように見えたのです。
あの模擬戦以来、宏基殿下はご自分の宮にひきこもり、
かねがね王太子としての資質をうたがわれていた宏基殿下ですが、模擬戦の敗北により、いえ、むしろその後の身の処し方によりでしょうね、心ある者にのこらず背を向けられた宏基殿下のお側に
ただひとり、青華宮からのお客人をのぞいて。
宴席に端然と座される殿下のお姿をお見かけしたときは、わたくし、手にしていた盆をとりおとしそうになったのですが、はじめてお目にかかったときとまるで変わらぬ、その清冽なたたずまいには深く安堵したのでございます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます