第四章 霜天の孤影
第四章 霜天の孤影(一)
「痩せたな」
わたくしを訪ねてこられた
夏陽公子にしげしげと顔をのぞきこまれるのは、あいかわらずひどくきまりが悪うございましたが、わたくしの身を案じてくださるお気持ちはうれしいものでした。
「だが、いい女になった。前は前で愛らしかったがな」
ああいうことを平気でおっしゃるような方でなければ、わたくしもすこしは考えるところがあったのですが。
「ああ、だからそうかしこまらんでいい。仕事中にすまないな」
わたくしの挨拶を途中でさえぎり、夏陽公子は、まあ座れ、と向かいの椅子をお示しになりました。ありがたく腰かけながら、わたくしはあとで皆になんと説明したものかしらと考えておりました。
わたくしの働く西宮に夏陽公子がいらっしゃったときの女官たちの騒ぎようときたら、それはもうたいへんなものでしてね。叔母の配慮で静かな小部屋を用意いただき、それでようやく落ち着いて話せるようになったのですが、あとで皆に質問攻めにされることは目に見えておりました。
「
はい、とわたくしはうなずきました。熱がひいて床から起きあがれるようになったわたくしに、そのことを告げてくれたのは叔母でございました。わたくしの心を傷つけないよう言葉をえらびながら。
これから冬をむかえるのだから、若い娘にいつまでも庭仕事などさせてはおけない。だから当分の間はこなくてよいと、青華宮から申し入れがあったのだそうでございます。
雪がとければまたお召しがあるでしょう、そなたの働きぶりにはたいそうご満足いただけていたようですから、と叔母は慰めてくれましたが、わたくしにはわかっておりました。春がふたたびめぐってきても、わたくしが青華宮の庭園にもどることはないのだろうと。
あの晩見聞きしたことは、わたくしの胸ひとつにしまっておりました。途方もない秘密の一端にふれてしまったことが怖ろしく、口をつぐむ以外の途が見つからなかったせいもありますが、それ以前に、あの夜の出来事がまるで夢の中のことのように思え、誰かに話そうにもうまく言葉が出てこなかったのでございます。
「殿下は、お元気でいらっしゃいますでしょうか」
ずっと気にかかっていたことをお訊ねしますと、夏陽公子は「それがな」としぶい顔をされました。
「おれにもわからんのだ。なにせ、あいつはいま
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