第110話〔MNB47の終戦記念日〕

高安女子高生物語・110

〔MNB47の終戦記念日〕          




 世の中100%の善意もないけど、100%のビジネスもない。


 仲間美紀のゴーストライターの桃井さんが言うた言葉は、二日ほどして実感になった。

「今日は、護国神社にいくぞ」

 市川ディレクターに言われて、最初は意味が分かへんかった。ゴコクも「五国」「五穀」なんちゅう字ぃが頭に浮かんだくらい。


 最初は靖国神社の大阪支店ぐらいに思てた。



「これには、ぜひ参加。靖国神社とは似て非なるもんだ。戦死した軍人だけじゃなく、自衛官、警察官、消防士など公務で殉職した人たちも祀られている。真摯な気持ちでお参りしてほしい」



 市川ディレクターの言葉で顔色が変わった子もおった。お父さんや御祖父さんが警察官や消防士で殉職した子がMNBで二人いてた。

 バス5台に分乗して、選抜からペーペーの研究生まで100人を超えるメンバーで住之江区の護国神社を目指した。

 案の定、マスコミが待ち受けてて、護国神社は天皇さんが来はった昭和45年以来の賑わいになった。


 バスの中で、お参りの仕方はレクチャーされてた。


 鳥居の前で一礼、それから手水所で左手、右手の順で手を洗い、口を漱ぐ。拝殿の前で座長の嬉野クララさんを先頭に、二礼二拍一礼をビシッと決める。一斉にカメラマンの人らのシャッター音。すると、神主さんが出てきて、かしこまってお辞儀しはった。うちらも、つられてお辞儀。



「前もってお話はいただいてましたけど、こない大勢で来てくれはるとは思てしませんでした。ほんまにありがとうございます。ここのご祭神は、若くして殉じた男の人がほとんどです。こないに仰山若いMNBのお嬢さんらに来ていただいて、ご祭神の方々も喜んでくれてはると思います。よろしかったら、お歌なんかご奉納していただけるとありがたいんですけど。お願いできまっしゃろか?」

「分かりました。二曲奉納させていただきます」



 いつのまにか笠松プロディユーサーも来てて、ちょっとしたライブができる準備がされてた。


 クララさんらの選抜が『心のプラットホーム』 うちら6期で『VACATION』 で、アンコールに応えて『21C河内音頭』で締めくくる。


「この神社には戦犯も祀られてること承知で参拝したんですか!?」

 毎朝新聞のアホがステレオタイプの質問をしてきよる。クララさんが代表して答えた。

「サンフランシスコ講和会議で、戦犯という呼び方は国際的に無くなったんです。みんな『公務死』という扱いと名称になってます」

「しかし、アジアの人たちがね」

「あなたのおっしゃるアジアって、どこなんですか?」

「それは……」



 毎朝の記者は三つの国の名前をあげた。



「あたしたち、みなさんみたいに賢くないけど、アジアの国がもっとあることぐらい知ってます」

 毎朝のオッサンが食い下がろうとすると、メンバーの一人が進み出た。

「あたしの父は消防士で出動中に殉死して、ここにいるんです。そこに娘がお参りして、どこが悪いんですか!?」

 その涙声にオーディエンスから拍手が起こる。

「でもね、さっき笠松さんが玉ぐし料渡してたでしょ。あれって、MNBの収益から出てるわけ。で、君たちのファンには、こういうことには反対の人もいると思う。そこのとこどう?」

 オッサンも意地になってきよった。



「わたしから、一言」



 神主さんが出てきた。

「護国神社は、楽に運営はできてません。せやけど、うちなんかより、もっと困ってる人がいてます。震災やら災害の被災者の方々に義援金として納めさせていただきたいと思います。ありがとうございます」

 オーディエンスから「お前も寄付せえよ!」「せやせや!」などと声があがる。

「こ、これって、売名行為とかの性格強いんじゃないの!?」

 しつこいオッサンや。

「それもあります、あけすけに言えば。でも世の中100%の善意やなかったら、したらあきませんのん? 少なくとも貴方よりはピュアな気持ちでお参りさせてもらっています。以上です」


 さすが、クララさん。うちはここまでの演説はでけへん。結局毎朝のオッサンは引き下がりよった。けど、その日の毎朝新聞のサイトは「シブチン!」「アホンダラ!」なんかのスレで炎上した。

 で、うちらの夜の公演は大盛況やった。


 仲間美紀が、「人生見直しのジャーニーに出かけます、もう少しだけ時間をください」の書き込み。桃井さんと手記を書く準備に入ったんやと思う。


 これが、うちらの終戦記念日でした。

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