第105話〔The Summer Vacation・8〕

高安女子高生物語・105

〔The Summer Vacation・8〕           



 ハワイロケは忙しかった。


 ワイキキビーチからダイヤモンドヘッド、アラモアナ・ショッピングセンター、ハナウマ湾、カラカウア通り、モアナルア・ガーデン、クアロア牧場、記念艦ミズーリ、と二日間かけて、撮影許可が下りるとこでは全部撮った。


 親会社のユニオシ興行のやることに無駄はありません。


 うちらはリカちゃん人形みたいに行く先々で着替えて、水着からアロハの短パン。支給された私服(?)なんかに着替え、3台のカメラで、延べ40時間分ほどの撮影。



 なんせ、曲が1950年代のアメリカンポップスの代表『VACATION』



 年寄りから若者まで、アメリカ人も日本の観光客もノリノリでノーギャラのエキストラに付き合うてくれはる。むろん、うちらが可愛いて、イケてるからやねんけど(笑)市川ディレクターと夏木インストラクターのやることはインスピレーションに溢れてて、ミズーリの前では、どこで調達してきたんか、水兵さんのセーラー服を着て『碇上げて』を即興の振り付けでやらされました。



 夜は、泊まってるホテルの要請で急きょミニライブ。これで宿泊代が三割引き。ほんまにうちのプロダクションは……!


 そんなふうな過密スケジュールで、さすがに線が切れかかったうちらに、なんと半日の自由時間。メンバー22人は4、5人ずつのグループに分かれて、ちょっとの間VACATION。ただ、ビデオカメラを持たされて、とにかく撮りまくりさせられました。



 これはアイデアでした。



 プロのカメラマンやのうて、素人のうちらが、好き好きに撮るんやさかい、いろんなビデオが撮れます。あとは編集するだけで、経費も手間もかかりません。


 ほとんどの子は、いわゆる名所を回りましたけど、うちは、ちょっと勇気出してアリゾナ記念館に行きました。


 アリゾナ記念館は、真珠湾攻撃で日本海軍がボコボコにして沈めた戦艦アリゾナの上にあります。いわゆる日本の『スネークアタック』と呼ばれる、アメリカ人には忘れられへん歴史記念建造物。日本人観光客は、あんまり行きません。

 あえて、ここを選んだのは、アメリカ人の生の反応が知りたかったから。


 入館は無料。


 沈んだままのアリゾナの真上を交差するように浮桟橋みたいな仕掛けで記念館があります。56メートルの「潰れた牛乳パック」と言われる白い箱みたいな記念館です。

「中央部はたしかにたるんでいるが、両端はしっかりと持ち上がっており、これは最初の敗北と最終的な勝利を表している。大きなテーマは平静であり、人々の心の最も奥にある悲しみの表現は、その人それぞれに感じ取るものでありデザインでは省略した」もんやそうです。

 亡くなった乗組員の銘板と、英文の説明文がありました。さぞかし日本の悪口が書いてあるんやと単語を拾うようにして読んでたら、いかついアメリカ人のオッチャンが寄ってきた。一瞬ビビったけど、オッチャンはにこやかに握手を求めてきた。

「NMB47のメンバーだね」

 きれいな日本語でした。聞くとアメリカ海軍の退役軍人さん。で、うちらが読みあぐねてた文章を日本語に訳してくれはりました

「アメリカ人には悲劇だけども、これは君たちのひいおじいさんたちが、どんなに勇敢に高い技術で戦ったかを書いてある。あの開戦は当時の情報技術では、悲劇的な行き違いだったけど、アメリカ人も日本人も死力を尽くした。そのことが書いてある。ここから何を読み取るかは、人それぞれの心の問題だ」



 なんや、アメリカに一本取られたような気がした。


 そのあと、オッチャンは当たり前のアメリカ人に戻って、いっしょに記念撮影。Tシャツにサインしたげたらムッチャ喜んでくれはった。


――なかなか粋なオッサンや―― 


 正成のオッサンが感心した……。

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