第104話〔The Summer Vacation・7〕
高安女子高生物語・104
〔The Summer Vacation・7〕
恵美須町の地上に出たらえらいことになってた!
電気屋のオッチャン、ネーチャン、オタク、メイドさんらが100人近く集まっての大歓迎。
『歓迎MNB47 佐藤明日香さん!』『日本橋のアイドル白石佳代子!』的なノボリやボードが生い茂った夏草みたいに林立。
近頃、難波やら心斎橋あたりに持っていかれたお客さんらに、返せ戻せの百姓一揆か、伊勢のお蔭参りの勢い。
人波の中にカヨさん見つけて、カヨさんの家に行くのを予定変更、百姓一揆のみなさんを引き連れ、十分に日本橋のロケーションを撮りながら難波のスタジオへ。途中百姓一揆のみなさんは、自分の店の前に来たら、カメラさんを強引に店の方にパンさせる。自分らも口々にお店のPR。せやけど100人余りが、てんでに好き勝手に言うさかい、全体としてのガヤの勢いしか伝われへん。
カヨさんが、日本橋期待のアイドルやいうことがよう分かった。
「河内音頭のフリに手を加えます」
スタジオに着いて、レッスンの準備ができると、夏木先生が宣言した。
「ディープなファンの方々からご指摘を受けました。河内音頭は『手踊り』と呼ばれる基本形と、『マメカチ』と呼ばれるリズミカルなものがあります。MNBは横方向の動きが目立つマメカチ系でしたけど、崩します。基本的なリズムだけ踏まえておけば、あとは各自の自由です。その自由と要所要所での統一感を出すレッスンをやります。テンポは基本の1・5倍でしたが、ラストは2倍にして、一気に盛り上げます。曲もニューミュージック風にアレンジしました。明日香は曲の練習ね。一時間で仕上げて」
MNBはいつもこの調子。その時その時のお客さんの反応や、テレビの数字などで、イケルと思えるところはどんどん変えて、イマイチなとこはあっさり切られる。
あたしはニューバージョンになった曲と歌詞を覚える。アレンジしたとは言え、基本は河内音頭なので、体を動かさへんと曲も歌詞も勢いが出えへん。この一時間のレッスンはきつかった。もう途中で取材カメラが回っていることさえ忘れてしもた。
OKが出ると、あたしはTシャツの裾を大きくパカパカ……しすぎてブラがカメラに映ってしまった。ラッシュで気が付いて「ここカット」ってディレクターは言っていたけど。あてにはなりません。
「すげーなあ!」
テレビのディレクターが思わず言うくらい、うちらの休憩時間はすさまじい。
「はい、休憩!」
その声がかかったとたん、うちらの女の子らしさはスイッチ切ったみたいに無くなってしまう。スポーツドリンクをオッサンみたいにがぶ飲みする子。バスタオルでTシャツまくり上げ汗を拭きまくる子。シャワー室へ駈け込んで、ダイレクトに体を冷やす子。二台のカメラは、そんな子ぉらを追い掛け回して大忙し。
「うち、映してくださいよ。これ『MNB47 佐藤明日香の24時間』いうタイトルなんでしょ!?」
で、思い出したディレクターが、急きょうちにインタビュー……言われても、急には言葉が出てけえへん。うちもたいがいや。
「車で言うとF1耐久レースですね。何百キロいうスピードで走りまくって、ピットインしてるのが今ですわ。うちら体は一つやけど、エモーションは何人前もあるんです。一遍には出しません。休憩のたんびに、ドライバーが入れ替わるように、新しいエモーション注入。え……教えられたこと?……ちゃいますね。この二か月間で、うちら自身で自然に会得した心と体のローテーションですね。キザに言うたら青春の完全燃焼のさせ方です」
我ながらうまいこと言葉が出てくる。そない言うてみんなを見ると、ただバテかけてるメンバーの姿が、いかにも美少女戦士束の間の休息に見えてくる。
午後からは、河内音頭がバージョンアップした分、バランスをとるためにVACATIONも手直し。
ヘゲヘゲになったとこで、市川ディレクターから嬉しい知らせ。
「ユニオシから予算が付いたんで、週末は三日かけて、プロモの撮り直し。ハワイで!」
え…………おーーーー!!
一瞬間があって、みんなから歓声があがった……!
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