第106話〔The Summer Vacation・9〕
高安女子高生物語・106
〔The Summer Vacation・9〕
時差ボケしてる間もなかった。
ハワイのプロモロケから帰ってくると、そのまま毎朝テレビの『ヒルバラ』に出演。選抜6人が前で、あとの6期生は後ろの雛壇。
当然トークは選抜に集中。他の子らはお飾り。
MNBに入って2か月ちょっとやけど、差ぁが付いたなあ……とは、まだ思えへんかった。
口先女では自信のあたしやけど、8分の間に、MCの質問受けて、プロモの話を面白おかしく話して、22人の子みんなに話振るのはでけへん相談。第一進行台本がある。関西のテレビは、「ここで突っ込む」とか「ここボケる」ぐらいのラフで、あとは成り行き任せいうとこがあるけど、『ヒルバラ』のディレクターは東京から来た人で、台本から外れることが嫌い。タイミングになると、必ずADのニイチャンのカンペで、否応なく台本通りに進行させられる。
「もっと面白~できたのになあ」
カヨさんが楽屋に戻りながらささやいた。楽屋に戻ったら局弁食べながらメールのチェック。ゆかり、美枝、麻友を始めあたしがMNBに入ってからメル友になった子ぉらに「ただいま。時差ボケの間もなくお仕事。またお話しするね!」と一斉送信。 ファン向けのSNSには「疲れた~」「ガンバ!」なんちゅう短いコメントと写メを付けて、あたりまえやけど一斉送信。
「さあ、あと10分でユニオシのスタジオに戻って夜のステージの準備。いつまで食べてんのよ。チャチャっとやってよチャチャっと!」
チームリーダーのあたしは、いつのまにか市川ディレクターや、夏木先生の言い方、考え方が移って同じように言うようになった。みんなんも認めてくれてるし、チームもまとまってきたんで、これでええと思てた。
バスでスタジオに戻るわずかの間に3人もバスに酔う子がでてきた。
「ちょっと、席代わったげて! 舛添さん酔い止め!」
女同士の気安さで、3人のサマーブラウスやらカットソーの裾から手ぇ入れてブラを緩めたげる。薬飲ませて、気ぃ逸らせるために喋りまくり。3人もなんとかリバースこともなくスタジオについた。ただ、バスの中で酔いが伝染。10人近い子らがグロッキー。
「ちょっと休ませた方がええで」
カヨさんの一言で決心。
「一時間ひっくり返っとき。しんどい子は、薬もろてちょっとでも寝とき」
「よし、明日香。その間に打ち合わせだ」
市川ディレクター、舛添チーフADと夏木先生ら大人3人に囲まれて、ハワイでのことを中心に反省会と今後の見通しについて話し合う。
「一番落ち込んでるのは誰だ?」
市川ディレクターの質問は単刀直入やった。
「和田亜紀と芦原るみです」
「じゃ、カヨさんといっしょに支えてやってくれ。6期生はスタートが早かった。まだ気持ちがアイドルモードになりきれてないと思う。なんとか取りこぼさずに、VACATIONを乗り切って欲しい」
「分かりました」
短時間やったけど有意義やと思た。短い会話の中で、現状の確認と展望、これからの見通し。ほんで、なによりもこれから6期生全員を引っ張っていかならあかんいう責任感と期待が市川さんらと共有できたことやと思えた。
みんなの様子を控室に見に行って、カヨさんとさくらと相談して、休憩時間を30分延ばした。
「じゃあ、6期。ハワイで一回り大きくなったところを見せるで!」
「オオ!」
控室で円陣組んで、テンションを上げた。休憩時間を30分余計に取った分、レッスンの時間は減ったけど密度は濃かった。この時まではいけると思てた。
うちらは、まだまだ前座やけど、MNB47始まって以来の成長株やと言われてる。負けられへん!
30分間、VACATIONとかTEACHERS PETなんかのオールディーズのあと21C河内音頭。間をうちとカヨさんのベシャリで繋いでいく。
なんとか、アンコール一回やって、失敗もせんと終われた。
で、楽屋で、仲間美紀が倒れた。全然ノーマークの子ぉやった。酸素吸入しても治らへんので救急車を呼んだ。
――うちは、何を見てたんやろ――
やっと出来始めたリーダーの自信が、遠ざかる救急車のサイレンとともに消えていく……。
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