第101話〔The Summer Vacation・4〕

高安女子高生物語・101

〔The Summer Vacation・4〕        




 河内音頭しか取り柄がないんだからね!


 夏木先生の言うことは三日で変わってしもた。

 三日前からブログアクセスは30000を超えてしもた。事務所にも6期生の河内音頭が聞きたいという電話やメールが殺到。

 で、市川ディレクターと夏木先生らエライさんが相談して、うちら6期生をシアターのレギュラーにすることにした。


 普通、研究生は一か月目ぐらいで一人15秒ほどの自己紹介と先輩らのヨイショがある。

 それから新曲がついて、グループデビューには3か月。それまでは選抜のバックと営業と決まってる。


 それが、ステージ紹介から、わずか6日でステージデビュー。


 日本で数ある女性グループで民謡、それも日本一泥臭い河内音頭。それとオールディーズのVACATIONとの組み合わせが、レトロでありながら、とても新鮮に映ったらしい。とにかく目先の人気第一主義のユニオシ興行が見逃すわけがない。


「ええ、では6期生の選抜と、チームリーダーを発表します」


 取り柄の変更の次に、これがきた。



「緒方由香、羽室美優、山田まりや、車さくら、長橋里奈、白石佳世子、佐藤明日香。あとは決まり通りバックね。ただ人気の具合では選抜入れ替えもありだから、がんばって!」

 落胆やらガッツやら、戸惑いやらが一遍に起こった。で、それを噛みしめる間もなく、夏木先生の檄。

「VACATIONの振り付けをきちんとやります。全員バージョン、選抜バージョン、1分バージョン、4分フルバージョンやるから、3時までには覚えること。3時からは河内音頭の特訓。はい、かかります!」


 さすがは夏木先生、完全に新しい振り付け。オールディーズの匂いを残しながらも、今風の目まぐるしいまでのフォーメーションチェンジ。これはいけると思た。

 午前中で、全員バージョンと選抜バージョンをこなす。上り調子のときは覚えも早い。レッスン風景をカメラ二台で撮ってたとこを見ると、プロモも撮り直しの感触。ユニオシから予算が付いたんやろなあ。


「昼からは、短縮とフルバージョンだけだからコス着けてやります。新調した衣装が来てるから、それ着てやるよ。シャワ-浴びて下着からとっかえてね」

「あの、下着の着替えは持ってきてません」

 という子が半分以上おった。充実はしてるけど、こんなハードなレッスンになるとは思っていなかった。

「あ、そっちの連絡はいってないか。仕方ない。全員分のインナー買ってきて!」


 これは、さすがに男のアシさんと違うて、事務の女の人が買いに行った。全員のスリーサイズは登録済みなんで、サイズ表持っていったら、一発でおしまい。

 シャワーはいっぺんに十二人が限界なんで、大騒ぎ。衣装は着替えならあかんし、頭もセットのしなおし。こないだのロケバスでも、そうやったけど、裏ではうちらは女を捨ててかかってる。学校でこれだけ早よやったらガンダム喜ぶやろな。と、一瞬だけ頭にうかぶ。

 みんなスッポンポンで着替えて交代。MNBに来る子はルックスもバディーも人並み以上やけど、その人並み以上でも胸やらお尻の形が千差万別やのは新発見。


 夏木先生の言うた通り、短縮とフルバージョンの違いは二回ほどでマスター。先生の指導がええのんはもちろんやけど、うちらのモチベーションが高いいうのが大きいことやったと思う。コスは赤と白を基調とした水玉。全体のデザインはいっしょやけど、襟やポケット、タックの取り方が微妙に違うんで、自分のコスはすぐに分かる。


 三時からは、河内野菊水さんが来て、河内音頭の特訓。菊水さんは河内音頭の第一人者。ちょっと緊張したけど、うちと同じ八尾のオッチャン。フリはスタンダードを教えてくれはったけど、ステップさえ間違えへんかったらアレンジは自由。

「明日香ちゃん、あんた上手いなあ。それだけやれたら、盆踊り、いつでもヤグラに立てるで」

 誉められてうれしいけど、河内音頭は、ほとんど、うちの中に住み着いてる楠正成のオッサンが楽しんでやっとる。700年の筋金入りの河内のオッサン。上手うて当たり前。


 本番前に、先輩の選抜さんらに挨拶。メイクとヘアーの最終チェック。全員で円陣組んで気合いを入れる。

「今日から、6期を入れて新編成。気合い入れていこな!」

「「「「「「「「「「「「「「「おお!!」」」」」」」」」」」」」」」」」

 座長嬉野クララさんの檄で気合いが入る。


 うちらの受け持ちは15分ほどやったけど、舞台も観客席もノリノリやった!


 そのあと、初めての握手会。うちのとこにも長い行列、嬉しかった。


 そやけど、その中に関根先輩が混じってたのには気ぃつけへんかった。佐藤明日香、一世一代の不覚やった……。

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