第100話〔The Summer Vacation・3〕

高安女子高生物語・100

〔The Summer Vacation・3〕              



「勝手に河内音頭なんか流すんじゃないわよ!」


 夏木先生が、鬼の顔になって怒った。

「すみません!」

 ワケは分からんけど、研究生は怒られたら、とりあえず謝る。この世界のイロハです。

「あんたたちはオールディーズのイメージで売り出すんだからね。一人違うイメージ出されると困んのよ!」

「はい。すいませんでした」

 そこに横から市川ディレクターが口をはさんだ。

「夏木さん。でも明日香のアクセス、3000件超えて、まだ伸びてますよ。6期生のブログじゃ最高だよ」

「うそ……ほんとだ」

 夏木先生と、市川ディレクターは20秒ほど話して結論を出した。さすがは大阪の芸能プロ。良くも悪くも頭の回転は早い。

「よし、今日一日で5000超えるようなら残してよし。超えなかったら、即刻削除。いいわね!」

「はい!」

 と、返事したあとは、カヨさんら研究生が笑て、もう別の話題になってた。


「ええ、一昨日のバケーションの評判がいいので、急きょプロモーションビデオを撮ることになりました。ただし、製作費は安いから、大阪の無料で撮影できるところだけで撮ります。じゃ、衣装に着替えて。バスに乗り込むよ!」

「はーい!」

 で、20分後には衣装に……いうても、一昨日のありあわせのままやけど。


 まずは、近場の難波高島屋の前。バスからサッと降りたかと思うと……

「カメラ目線でもいいから、とにかくハッチャケて。フォーメーション? そんなのいいから、とにかく一本いくよ」

 マイクも何にも無し。カメラ2台。照明さん二人。音声さんは、たった一人で口パクを合わせるためだけに曲を流すだけ。夏木先生は選抜の人らの振り付け指導で残留。市川ディレクターとアシさんが二人っきり。


 10分で撮り終えると……どうやら撮影許可をとってないようで、お巡りさんから言われるまえに撤収。   


 次にあべのハルカスが見えることだけが取り柄の、親会社ユニオシ興行の屋上。ここは自前の場所なんで、リハも含めて、一時間。それからユニオシの前。日本橋、天王寺、心斎橋なんかで、ゲリラ的に数人ずつ撮影。さすが大阪の物見高いオーディエンスの人らも「なんかやっとるで!」言うて集まったころには撤収。通天閣の下でやったときは、見物のオバチャンがみんなにアメチャンくれた。


「次は大阪城や!」


 大阪城はバスの駐車場のすぐ近く。北側の極楽橋の前で、天守閣を背景に十分。毎日放送が『ちちんぷいぷい』のロケに来てたんで、無理矢理割り込んで一曲やらせてもらう。これは市川さんのアイデアと違うて、うちらと毎日放送の世紀のアドリブ。生放送に5分も割り込む。お互い低予算同士の助け合い。


 バスに戻ったら、アシさん二人がロケ弁を配ってくれた。さすがにMNBのアシさん、この移動の最中に贔屓の弁当屋さんに手配してくれたらしい。

 感心したんやけど、アシさん二人は、みんなが食べ終わるまで、打ち合わせやら、次の手配やらで走り周り。

「ロケの許可下りました」と、アシさん。

 急きょ市役所の前に行って30分。終わりの方では市長さんも出てきてノリノリ。これも互いのPR。大阪の人間のやることに無駄はありません。


 さすがに衣装が汗びちゃ。



「その衣装は、ここまで。次は海水浴!」

 で、一時間かけて二色の浜へ。その間にバスのカーテン閉めてみんなで水着に着替える。

「みんな、高画質で撮ってるから、ムダ毛の処理なんかは、忘れずに。シェーバーはここにあるから、よろしく!」

 22人の勢いはすごい。とても文章では表現できんようなありさまで、着替えたり、ムダ毛の処理したり。朝からのハイテンションで、スタッフのあらかたが男の人やいうことも気になれへん。


 二色の浜に着いたんは4時前。海水浴客が少なくなる時間帯を狙うてる。なんか思い付きで撮ってるようやけど、市川ディレクターの頭には、ちゃんとタイムテーブルがあるみたい。

 二色の浜では、フォーメーション組んで、二回撮った後は、みんなで時間いっぱい遊んだ。カメラさんは腰まで水に浸かりながら撮影……してたらしい。うちらは、そんなんも忘れてはしゃぎまくり!


 その日、家に帰ってパソコン見たら、アクセスは5000件を目出度く超えておりました……(^0^)!    

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