第97話〔人生出来たとこ勝負!〕
高安女子高生物語・97
〔人生出来たとこ勝負!〕
「人生て、出来たとこ勝負やと思うんです!」
そう大見栄を切ったのは夕べ。MNBのレッスンが終わって、なんと夜中の10時に美枝の家のリビングで中尾一家を前に大演説。
「それ、出たとこ勝負じゃないの?」
元凶の美枝の兄貴が鼻先で言いよった。
「いいえ、出来たもんです。美枝のお腹の中の赤ちゃんが、まさにそうです!」
「そうか、言葉のあやで、来ようってか」
「美枝に赤ちゃんが出来て、二人で夫婦になる。この大前提は了解してもらえますね?」
「ああ、だから、こんな夜中にみんなに集まってもらってる」
お父さんが鷹揚なんか嫌味なんか分からん言い方をする。
「それを了解してもらえたら、結論は一つです。美枝を大阪に置いといて、全うさせるんが正しいんです」
「だけど、美枝は、こう見えてプレッシャーには弱い子なんだ。学校や世間で噂になったら、美枝は耐えられないよ」
うちはムカついた。
耐えられんような現状にしたんはあんたやろ!
それに、いかにも秘密がバレるんはうちらからやろという上から目線!
「うちらがバラさんでも、体育の見学、体つきの変化なんかで、必ず分かってしまいます。確かに、アメリカに行ったら一時秘密は隠せます。そやけど、お兄さん……ダンナには分からへんでしょうけど、それは逃げたことと同じです」
「逃げて悪いのかい? 母親の心理はお腹の中の子供にも影響するんだ。プレッシャーの少ない環境で、出産させてやりたいと思うのが配偶者のつとめだろう?」
どの口が言うとんねん。アメリカ行きの費用持つのはあんたの親やろが!
「逃げたという負い目は一生残ります。それこそ、赤ちゃんに悪い影響……場合によっては、流産、切迫早産の危険もあります」
「そんなことは……」
「あります。これ、厚労省の資料です。『高校生などの若年出産のリスク』という統計資料です。社会的な体面などを考えて妊婦の環境を変えた場合の問題点に、逃避的対応をとった場合の影響に出てます」
お母さんが、興味を示してプリントを手に取った。美枝自身は俯いたまま。美枝はもともとは内弁慶な子や。親しい仲間や地域の中でこそ大きな顔して『進んだ女子高生』ぶっとるけど、アメリカみたいに、まるで違う環境に行ってしもたら青菜に塩や。
「無事に出産できたとしても、美枝には逃げ癖がつくと思うんです。なにか困ったことがあったら、親が助けてくれる。逃がしてくれる。その方が本人のためにも生まれてくる子にも悪い影響が出ます」
それから、一時間近くも議論した。
「もう時間も遅い。日を改めて話そうじゃないか」
「無理言いますけど、結論出しましょ。延ばしたら美枝が苦しむだけです」
「もともとね、こんな平日の夜中に話そうってのが無茶なんだよ。土曜でも日曜日でも……」
「土曜は都合がつかへん。そうおっしゃったのはお父さんです。日曜はお兄……ダンナさんが都合が悪いって、伺いました」
「じゃあ、一週間延ばせばよかったじゃん」
「その一週間、美枝は苦しいままなんですよ!」
「でも、こう言うたらなんやけど、今日は私らは昼からスケジュールが空いていた。こんな時間に設定したんは、佐藤さん、あんたの都合やで……責めるような言い方で申し訳ないけど。あんたが、そこまで言うんやったら……なあ」
「すみません、それはうちの都合で……」
雪隠づめの沈黙になってしもた。ヤバイ……。
「明日香は、MNBのレッスンがあるんや……」
美枝が呟くように言うた。
「MNBって、あのMNB47のことか?」
「は、はい。なりたての研究生ですけど……」
「すごいよ、あれ2800人受けて20人ほどしか受からなかったんだろ!?」
意外なとこで、美枝の家族が感動した。
「さぞかし、レッスンやらボイトレとか、普段から習っていたんだろう!?」
「いいえ、進路選択の一つで体験入学みたいなつもりで受けたら通ったんです。で……出来たとこ勝負でやってます」
うちが、その時、初めて出した弱み……せやけど、これが功を奏した。
「MNBに合格するような子なら、こちらも真剣に耳を傾けなきゃ!」
で、美枝のアメリカ行きは沙汰やみになった。MNBの力はスゴイ……!
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