第96話〔うちが説得したる!〕

高安女子高生物語・96

〔うちが説得したる!〕        



 高校生の妊娠は珍しない。連れ子同士の結婚も、ままあること。


 せやけど、この両方をいっぺんにやってしまうことは、大変珍しい。

 その珍しいことを、美枝はヌケヌケとやってしまいよった。

 信じられへんことに、美枝の親も異議はないらしい。

 学校も生徒の妊娠ということは過去にいくつかあったみたいで対応は早いというか、マニュアル通り。


 職員会議にかけて、全教職員が共通理解をもっておく。一般の生徒には妊娠の事実は知られないようにする。体育は基本的には見学にする。修学旅行は不参加。妊娠の状態が顕著になる7か月以降は、医師の診断書により休学とする。

 で、美枝の例外規定としては、うちとゆかり、それに麻友が知ってるので、三人は秘密を守るとともに、出来うる限り美枝を見守ってやること。


「見守るて、どうすることですか?」


 相談室で、ガンダムに質問した。AMY三人娘と麻友がいっしょやった。

「見守りは見守りや。第一には他の生徒には分からんようにすること。積極的には言わへんけど、美枝は心臓疾患ということにしておく。くれぐれも頼んだで」

 要は、うちらへの口止め。普通生徒の妊娠は、友達にも言わへん。それが、美枝は、うちらに言うてしもたんで、学校としては言わざるをえん。

 ガンダムには悪いけど、これは学校のアリバイや。学校としては事情を知ってる生徒には注意した。せやから、万一他の生徒にバレても、学校の責任やない。元学校の先生を親に持つと、このへんの機微は分かりすぎるくらいに分かる。


「まあ、こんなもんは想定内のことやさかいに、よろしゅう頼むわ」


 と、昨日の美枝はお気楽やった。ゆかりと麻友は秘密を共有したパルチザンの同志みたいに興奮してた。うちもできてしもたもんはしゃあないんで、調子を合わしとく。せやけど、このままうまいこと行くようには思えへんかった……。


 予感は、あくる日。つまり今日には現実になってしもた。


「親が秋からアメリカの高校に行け言うねん」

 昨日とは打って変わって、泣きそうな顔で言うてきよった。

「どういうことよ!?」

 ゆかりが、目を吊り上げて聞く。

「それが……」

「それが、どないしたん!?」

「あんたら、三人に言うてしもた言うたら、それは漏れる可能性が高い。漏れてからでは逃げるみたいでグツ悪い。幸いアメリカは9月から新学年や。向こうは学校に託児所まである。卒業までは、そないしなさい」

 と、言われたまんまに言いよった。言われたうちらは頭から信用されてないみたいで気分が悪い。ゆかりなんかはユデダコみたいになって怒りよった。

「あたしらのつきあいは、そんなんとちゃうでしょ! そない言うご両親も情けないけど、それを、そのまま聞いてきて一言も、よう言わんで、うちらに言う美枝も美枝や!」

「これは、新しい命を授かるための神様からの試練よ。美枝自身が決めなきゃ仕方がないわよ」

 うりざね顔の麻友は、カトリックらしいことを言う。美枝は怒るし、麻友は神父さんみたいに浮世離れしてしまうし、MNBのレッスンの時間は迫ってくるし。


「分かった、うちがお父さんとお母さんを説得したる!」


 口先女の悪いクセが出てしもた……。

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