第98話〔The Summer Vacation・1 〕

高安女子高生物語・98

〔The Summer Vacation・1 〕         



 夏休み(The Summer Vacation)が始まった!


 なんの予定も目標も無くても、夏休みの初日は楽しいもんやと決まってる……いつもは。


 今年は、ちょっとちゃう。


 美枝の連れ子同士の、それも女子高生と大学生のデキチャッタ結婚も丸く収まった。アメリカの高校まで行く必要も無くなった。

 一昨日の晩、美枝の家でお父さん・お母さん・お兄さん兼ダンナ・美枝本人と2時間ケンケンガクガクの大論争。


 せやけど、うちがMNB47の研究生やいうことが分かったとたんに、コロッと話が片付いた。


 MNBの看板が水戸黄門の印籠になるとは思わへんかった。あとでじっくり考えた……お父さんもお母さんも、美枝の顔見てたら無理やいうのが分かってきた。しかし、話の勢いで簡単に引き下がるわけにはいかへん。そこで、うちのMNBの話に感心したふりして、矛先を収めた。


――しかし、MNBいうのは、天皇はんのご威光みたいに力があるんやなあ――


 正成のオッサンがうちの中で、一人感心しとおる。MNBが、たとえ口実に使われたとはいえ、評価されてんのは嬉しい。そやけど、うち自身の話やら理屈、MNBのメンバーとしての実力での評価やないのは、ちょっと複雑な気持ち。


 それに、あのアニキ兼ダンナいうニイチャンは、はっきり言うて、うちは好きになられへん。なんや自分の都合で……やめとこ。仮にも親友の美枝が好きになった人や。


 で、昨日スタジオにいくとびっくりした。


「君らのデビュー曲が決まった」市川ディレクターが直々に言わはった。

「ええ!?」「ウワー!」いうのが22人のメンバーの反応。

「正直デビューさせんのはまだ早い。未完成や。ただ、他の期の研究生と違って、えらくハッチャけた感じが、とても新鮮で面白い。この新鮮さは、上手くなるに従って失われていくと、ボクや笠松さん、夏木さんも感じてる。MNBは元々ファンの人たちに押されながら成長するのがコンセプトだった。ところが競合するグループの完成度が年々高くなるので、いつのまにか完成度が高くなりすぎて、高止まりのマンネリの傾向にある。そこで、君たちは、あえて未完成過ぎるくらいのところで出すことになりました」

 後を夏木さんが続けた。

「この方針は決まったばかりで、曲も振り付けも一からでは間に合わないので、逆手にとって、リメイクでいきます!」

 夏木さんが指を鳴らすと曲がかかった。


 V・A・C・A・T・I・O・N楽しいな🎶    


「コニー・フランシスの名曲。オールディーズの代表曲。これをひと夏やります。さ、立って、振り付けいくわよ!」


 うちらの「バケーション」という名前の目標というよりは、戦いが、ここから始まった!

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