第87話〔あんたたち、歯が痛いの!?〕
高安女子高生物語・87
〔あんたたち、歯が痛いの!?〕
「あんたたち、歯が痛いの!?」
別に歯医者さんに言われたわけやない。MNBレッスンの初日は、MNBのホームページに載せる写真を撮ることから始まった。
「い~い、みんな笑顔よ、笑顔!」
そう言われて、みんな笑顔を意識してカメラの前に座った。一応ナリはお仕着せのMNBの制服。
で、最初の集合写真で、インストラクターの夏木静香先生にカマされた。
なるほど、みんな笑顔が固いというか、虫歯が痛いのを堪えているような顔になってる。
「いい、笑顔ってのは、ホッペの笑筋を使ってほほ笑むの。それと顔の緊張は目じりに出てくるから、目じり中心に顔の緊張をほぐすようにして! だめよ、ちょっとダメ出されたからって緊張してるようじゃ」
それから、三十分かけて笑顔の練習。さすがに互いの顔を見て吹き出すような子はいないし、飲み込みも早いと思た。
「ま、いいでしょう。研究生らしい微笑みにはなってきた。とりあえず、これで撮ろうか……あのね、学校のクラス写真撮るんじゃないんだから、真っ直ぐ向いてどうする。そえぞれ軽く個性が出るようにして、それでいて全体でバランスがとれなきゃ。姿勢は基本的には斜め。それで顔は正面。いくよ。景気づけに『あたしたちMNB47だ!』って、カマしていくよ! 」
「あたしたち、MNB47だ!!」
その瞬間シャッターの連写音。
「ま、30枚ばかり撮りましたから、使えるのあると思いますよ」
プロの仕事は、さすがに早い。
「じゃ、個人写真。順番にいくよ」
「MNB最初の写真。わたしの第一歩はこれでしたって、選抜になった時笑えるような写真いくよ。そう、その時笑えるためには、いま笑えなくちゃね。さ、元気よく3+4は?」
「ナナア!」
「東京弁でアホのことは?」
「バカア!」
てな具合に、たえず会話し「あ」母音で終わるような言葉を言わせて連写。その場の空気を大事にしてることが分かる。みんながハイになっている5分ほどで、22人全員の写真を撮り終えた。
それから、練習着に着替えて、いきなりMNBの代表曲『おもいろクローバー』をみんなでやらされた。いちおうオーディションを通ってきた子ぉらやので、フリも、曲も頭と体に染みついてる。うちはうる覚えやったけど、三クール目には完全にいけた。
――あれ……?――と思たんは、五回目やった。
「うん、よかったから、もう一回」
言葉を変えながら、十五回ほどもやらされてヘゲヘゲになってしもてた。
「いい、選抜の子たちは、こんなの立て続けに三時間こなすんだよ。たった十五回、45分でバテてちゃ話にならないわよ。それに見てごらん、各自バラバラでフォーメーションもヘッタクレもなし。分かったわね、今日は自分たちの今を知ってもらいました。次から本格的にやります。まず体力づくり!」
「はい!」
テンションを上げながら、できてへんことをズバズバと指摘。さすがはプロの世界やと思い知らされた。
ほんで、学校やら友達のことは急速に頭から抜けて行ってしもた……いや、抜けていくことにも気ぃつかへんかった。
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