第88話〔宇賀先生の復活〕

高安女子高生物語・88

〔宇賀先生の復活〕        



 宇賀先生が復活した。


 喜ばしいことやねんやろけど、うちは複雑な気持ちやった。

 宇賀先生は、今月の初めにグラウンドの線引きを体育委員の子とやってて、風で飛んできたカラーコーンが顔に当たって何針も縫う大怪我をした。生徒に当たりそうになったんを庇っての大怪我。


 麻友は「やめといた方がいい」と言うのを美枝とゆかりと三人で見舞いに行って後悔した。先生の顔はパンパンに腫れてた。

 昨日は腫れこそは引いてたけど、右のコメカミからほっぺたにかけての傷が痛々しかった。先生は、その傷を隠そうともせんと、いつものポニーテール。

「ごめん。見てる方が不愉快やと思うねんけど、あたしは傷を隠したないねん……まあ、ちょっとずつ治ってくるから、しばらく辛抱してね……いや、ほんま。今は整形とかも進んでるさかい、一年もかけたら元の顔にもどるよ。あたしかて、恋人作って結婚したいしなあ!」



 少しほぐれた。



 せやけど、いつもやったら「ほんまは、もうカレ居るんちゃうん!?」とかチャチャ入れるヤンチャらが黙ってる。先生が精一杯やいうのも分かってるし、あの傷は跡が残るいうこと、アホな高二でも分かる。女同士、やっぱりまともには見られへんいうのが正直なとこ。で、先生は、それ以上傷の話題には触れんと授業に入った。授業は気合いが入ってた。平泳ぎ25メートルを五本もやらされてヘゲヘゲ。先生は庇われた体育委員の子に気遣いしてんのがよう分かった。暗くしてたら、その子はいたたまらへんもんな。


 いつものようにスッポンポンになって着替えるさかい麻友が一番早いねんけど、今日は格別に早かった。


 何かあるなと思って、AMY三人組(明日香・美枝・ゆかり)で見に行った。ちょうど体育の教官室から麻友が出てきて、宇賀先生が嬉しそうな顔でお礼言うてた。

「麻友、何を宇賀先生にあげたん!?」

 三人で声をそろえて聞いた。

「なんでもないわよ」

 麻友らしいもない、ツンとすまして行こうとするから、うちらは呼び留めた。

「正直に言わんとコチョバシの刑やぞ」

「なに、コチョバシって?」



「やった方が早い」



 ゆかりの一言で三人がコチョバシた。

「アハ、アハハ、アハハハ、ウキャキャキャ、ハヘハヘ、笑い死ぬう!」

 麻友は廊下に転がって、おパンツ見えるのも気にせんと笑い転げた。麻友は笑い方までラテン系や。

「言う言うからカンニン、カンニン……」

「なんかブラジルのお土産か?」

「にしては、遅いなあ」

「怪我のお守り、石切神社で買ってきたの!」

「あんた、よう知ってたね!」

「石切さん言うたら、デンボと病気怪我一般の神さんやもんな」

「明日香が教えてくれたんだよ」

 ようやく乱れた制服を直しながら麻友が言うた。

「うちが、なに言うた?」

「電車は、降りなかったらどこまで行ってもダダだって。それで情報仕入れたの。分かった?」

「あんたは、エライ! その偉さを讃えて、コチョバシ……」

「キャハハ、もうカンニン!」

 コチョバシてもないのに麻友は、笑いながら行ってしもた。


 次のしょーもない数学の時間に考えた。


 麻友は知らん間に、うちらがコチョバシの刑ができるほどに親密になったいうこと。これは喜ばしい。ほんで見かけからは想像でけへんぐらいゲラやいうこと。あの子の見かけの清楚さとラテン系の明るいギャップは、なかなか面白い。


 で、もう一つは疑問。麻友はブラジルから来た子やのに、なんで石切のお守りや? ブラジルやったら、カトリックやのに……思うてたら、あてられてアタフタ。こっそり答え教えてくれたんも麻友。


 でも、今日は朝からMNB47のレッスン。終わったころには、みんな忘れてしもた……。

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