第80話〔13日の金曜日〕
高安女子高生物語・80
〔13日の金曜日〕
ウ、ウンコふんでしもた!!
これがケチのつき初めやった。
ウンがついてケチが付く、悪い洒落や。
ティッシュであらかた落としたけど、そこはかと臭いが残る。
そやけど、通学途中。家に帰って靴履き替える手ぇもあったんやけど、駅の真ん前。気持ちは迷いながら体が改札の方向いていく。これが忘れ物やったら前回書いたように、家に帰ってる。犬のウンコぐらい、あらかた拭き取ったし、歩いてるうちに無くなる……という考えはホームに降りる階段で甘いことを実感した。
階段降りる人らがうちのこと見てる。
やっぱりそこはかとなく臭ってくる。
まるでうちがオモラシしたみたいや。
とても電車に乗られへん。しゃあないから、ホームの水道で、靴の中濡らさんようにして洗う。ティッシュで拭く。嗅いでみる……やっぱり、そこはかとなく臭いが残ってる。で、もっかい洗う。無情にも準急も各停も出てしまう。
「犬のウン踏んでしもたん?」
OL風の女の人が声をかけてくれた。
「はい、めったにないことなんですけど」
「ほんまに、マナーの悪い人ていてるもんやねんねえ」
そう言うて、OLさんは携帯用の臭いけしを靴にスプレーしてくれた。
「ほんなら、あたし次の各停のるさかい。気ぃつけてね。今日は13日の金曜やさかい」
ゲ、13日の金曜日……
サラリーマンのオッチャンが読んでる新聞には、まごうことなき6月13日金曜の日付。お礼言わなら……OLのオネエサンを乗せた各停はホームを離れていくとこやった。
次の準急に乗る。これで15分の遅れ。まあ、余裕もって家出てるさかい、学校はギリギリセーフ……のはずやった。
桃谷の駅降りて、改札出よ思うたら、とちくるた改札が通せんぼ。むかついて手許を見たらカラオケ屋のポイントカード。慌てて定期に替えて出るのに5秒のロス!
で、このロスが、次の悲劇に。
――あ、信号変わる!――
そない思たら体が出てた。そこに気ぃの早い車が走り出して急ブレーキ! その車と、その後ろの車がクラクション。一応ごめんなさいと片手で謝る……ぐらいで許してもらえるほど、今日は甘ない。
「ちょっと、そこのOGHの生徒!」
お腹の底から出てくるような声。道の向こうで怖い顔した女性警官のオネエチャン(なんで、こんな慌ててる時に二重表現やねん!)
「あんたねえ、高校生にもなったら信号ぐらいまもりなさいよ」
「はい」と、素直に言われへんのが、うちの欠点。枕詞が「そやけども」言うたしりから後悔。
「そやけど、なんやのん!」
あかん、婦警(女性警官なんちゅうリズムのとれへん言葉は使われへん)さん怒らしてしまう。
「なんでもありません。急いでたよって、ほんまに不注意でした。すんませんでした」
「その素直さを、どうして、もう10秒早うもたれへんのんかなあ。今のんは、ほんま大事故寸前やってんよ。だいたいね……」
と、5分ほど絞られて、やっと解放。あかん、チャイムが鳴ってる、遅刻指導にひっかかる。なんでかチャイムがチャラ~ンポラ~ン、チャランポラ~ンに聞こえる。猛烈なダッシュで校門をくぐる。運動会で、これだけのダッシュしてたら、ゴール前で無様にコケんですんだのに。
あ、朝礼が始まる。ガンダムは遅刻にうるさい。教壇に立たされて絞られる!
と、思うたら、ガンダムが来てなかった。
「あ~あ、損したなあ!」
汗みずくやったんで、タオルハンカチ出して顔拭きまくり、胸の第二ボタン外して脇の下まで拭く。
「どないしたん、明日香がこんな時間に来るなんて?」
「今日は、13日の金曜やねん!」
言うた言葉が、そのままウンコから、婦警のネエチャンのことまで思い出させる。ゆかりの言葉に合わせて美枝が言う。
「ひどい顔してるよ」
「ほっといて、生まれつきですねん!」
その時、腋の下からちょっと背中側に回った手ぇが、ブラに引っかかって、ホックが外れてしもた。
「どないしたん、急に静かになって?」
「ちょっと、緊急事態……」
片手でゴソゴソやるけど、背中のホックには届かへん。また、汗が流れてくる。そのとき麻友が後ろに回ってマジックみたいに、ホックを嵌めてくれた。
「え……?」
「ブラジルで、よく、この逆やって遊んでたの」
麻友の意外な一面を発見。やっぱり麻友は、いろいろ奥行きのある子やと思うた。
とにかく、今日はついてない。
宿題はやったのに持ってくるのん忘れるし、家庭科の調理実習では塩と砂糖を間違えるし、トイレに行ったら、用事済んでからトイレットペーパーが無いのに気ぃつく。ポケットをまさぐったら、朝のウンコのせいで手持ちのティッシュも切れてた。
「クソー!」
思わず唸ったら、ドアの上からトイレットペーパーの福音。
「これやろ、明日香」
美枝の声。
「おおきに……」
とは言うたもんの、個室の外で笑うてる気配。クソ~!
放課後、宇賀先生を校長室の前で見かけた。ガンダムもいっしょやった。
気配で分かった。宇賀先生は職場に戻りたいんや。それを校長とガンダムの二人で思いとどまらせたんや。あの、怪我では、まだ無理なんは被ってる帽子見ても分かった。
宇賀先生は、うちよりずっと前から13日の金曜やねんや……。
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