第81話〔そない言われても……〕
高安女子高生物語・81
〔そない言われても……〕
これで四冊目や……。
大学の入学案内。
「明日香が、行きたい言うからよ」
ブスっとしてたら、お母さんに苦い顔された。元はと言えば、うちが悪い。
先週の懇談で「演劇やりたいです」なんて、苦し紛れに言うたもんやさかい、お父さんとお母さんで相談して、あちこちの演劇科のある大学から入学案内を取り寄せた。それもネットで申し込むよって、うちには、ほんま寝耳にミミズ……タッチミス。寝耳に水です。
「OG大学……KI大学……KZ大学……OS大学」
「こんなんも来てるぞ」
「ゲ……!」
大阪の劇団の研究生募集のプリントアウトしたやつが三枚。
「まあ、なんも、この中から決めなさいいうことやないよ。懇談のあと、あんたがなんにもせんと、紫陽花がドータラ、ウンコ踏んでコータラて、全然その気になってないみたいやよって、刺激を与えるつもりで取り寄せたもんやさかい、気楽に見たらええよ」
と、母上はおっしゃる。
仕方ないんで、三階の自分の部屋に戻って、パラパラとめくってみる。
――豪華講師陣!――
――舞台で、もう一人の自分を見つけよう!――
――ここに、君の新世界!――
――人生の第二幕が、今始まる!――
四冊目で嫌になった。考えてみんでも分かる。この四大学の定員合わせただけで1000人は超える。それに大学は四年制。つまり、入学しても、先輩らが同じ数だけおって、他の短大やら専門学校、劇団の養成所あわせたら、もう自宅通学可能な範囲の中だけでも10000人近い演劇科の学生やら研究生がおる。
こんだけの需要が、この業界にはあれへん。絶対!
プロでやっていけるのは、まあアルバイトみたいなん含めて一割。専業でやれるんは……考えただけで恐ろしなる。
「ビビっとるだけでは、いつまでたっても決心でけへんで」
寝るとき以外はけえへんお父さんが、いつの間にか後ろに立ってる。
「人生言うのは、石橋叩いていくもんやない。その時その時の出来心で分岐していくんや。ま、明日香には、めったに人生訓めいたことは言わへんけど、人生はやって失敗した後悔よりも、せえへんかった後悔の方が大きい……と言うな」
「そない言われても……」
「人生は短いぞ。こないだ女子高生や思てたんが、いつのまにか還暦前のオバハンや」
二階のリビングで、お母さんがクシャミをした。
「まあ、ゆっくり考え……言うても秋の進路選択には決めならあかんけどな……」
それだけ言うて、お父さんは下に降りて行った。
――楽しい選択やんけ、命がかかってるわけやなし、ちょっとでもやりたかったら飛び込んでみい――
正成のオッサンも勝手なことを言う。
確かに、おとうさんの言うことにも一理ある。生まれて、まだ17年と2か月の人生やったけど、思い返すと小学校、保育所の時代なんか、ついこないだやった。
関根先輩のことも頭に浮かぶ。関根先輩の気持ちが揺れてるのは、うちの錯覚だけやないと思う。せやないと呼びもせんのに運動会観にきたりせえへん。麻友に鼻の下伸ばしたんも照れ隠し。踏み切れへんのは、うちの方かもしれへん。
ちゃうちゃう、うちの進路のことや。
確かに、コンクール出た時も、他の学校の子は大根やった。舞台で、その場所に立ってるいうことは、みんな役として理由か目的があるからや。台詞は思考や行動の結果で、演技で一番大切なんは対象を、ちゃんと見て聞くこと。その結果自然に台詞が出てくるまで読み込んで演りこまならあかん。
あかん、今は自分のこっちゃ。
「明日香、こんなんきたぞ!」
また、お父さん。今度はプリントアウトした紙一枚。読んでびっくりした!
それは、MNB47の書類選考合格の書類やった……。
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