第78話〔三者懇談〕
高安女子高生物語・78
〔三者懇談〕
「思慮深そうやけど、ちょっとオッチョコチョイですなあ」
ガンダムの第一声がこれやった。
お母さんはニコニコ聞いてる。
で、その横で、お父さんが友好的なポーカーフェイス。
うちは、ただただ恥ずかしいてドキドキ。三者懇談に両親が揃てくるとこなんかあれへん。これが恥ずかしい理由。
ガンダムは元生指部長やった。他の先生よりも生徒を見る目が確かで厳しい。これがドキドキの理由。
うちの親は二人とも元教師やさかい、懇談の手のうちなんかよう知ってる。
お父さんは、いま学園ものを書いてるんで、その勉強のため言うて付いてきた。ようは暇なだけやねんけど、娘のうちは迷惑なだけ。うちの前が安室君(学級委員長)、後が秀才の新島君。当たり前やけど付いてきてるのはお母さん。控えめやけど、両親が揃て来てるのに興味津々いう顔してた。
「どんなところで、そうお感じになるんですか?」
優しく、でも鋭く切り込んでくる。普通の親やったら、黙ってニコニコ聞き流すとこや。こういう抽象的な観察に、どれだけ具体的な裏付けを持ってるかで、教師の力が分かる。
「卒業式の時、式場に入りたがらん教師が何人か居てたんですけど、そういう教師に世間話を装っていじめとったようです」
お父さんが、大きな声で笑た。お母さんはちょこっとうちを睨んだ。
「それから、一年の三学期にクラスの子が交通事故で亡くなったんですけど、ご家庭の事情で家族葬にされました。それを明日香は調べ上げて、火葬場の前でずっと待ってて、寒さのためにひっくりかえって、火葬場の事務所でお世話になりました」
「なんで、先生、そんなん知ってるのん!?」
「オレも、火葬場まで行ってたんや。まあ、明日香には言わんほうがええ思て、今まで知らんふりしてた」
「さすが先生ですね。あのことは、この子の頼みで内緒にしてたんですけど」
「明日香の優れたとこです。多少無茶なとこありますけど、大事にしてやりたいと思てます。そういうとこ見込んで転校生の世話なんか頼んだんですけど、転校生の子もしっかりしてて、まあ、結果的には、ええ当て馬になった思てます」
うちのオッチョコチョイは他にもあるけど、先生は黙ってくれてた。観察力の鋭さと、その鋭さに、ちょっと温もりを感じた。
「しかし、成績は別もんですなあ……国・数・英が、かなり低いです。この期末と二学期にがんばっとかんと、推薦入試は厳しいですね」
「明日香、がんばらなあかんで」
「分かってるて」
「ただ、国語の答案なんか見てますと、なんちゅうか、分かってるくせに、わざと違う答え書いて成績落としてるようなとこがあります」
「それについては心配してません。明日香は、自分の感性で喋ったり、文章書いたりする子です。要は自己主張する場所を間違うてるだけですんで、今度の期末は失敗しないと、親バカですが思ってます」
「そうですな。おたまじゃくしは、いつかカエルになるもんですからね」
え、うちは成ってもカエルかよ?
「あとは、本人の進路希望ですな。明日香、おまえぐらいやぞ、進学希望に漠然と文系進学としか書いてないのは。なんか具体的に行きたい学部とかないんか?」
「どないやのん、明日香?」
大人三人の視線がいっぺんに集まった。もううちも二年や、オチャラケた執行猶予言うわけにはいかへん……。
「演劇科のある大学にいきたいです!」
「え?」
大人三人がびっくりしてた。そらそやろ……。
口走った本人が、一番びっくりしたんやから……。
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