第70話『妄想の触媒アイテム』

高安女子高生物語・70

『妄想の触媒アイテム』       



 キャー、可憐な女子高生二人が無抵抗に裸にされかけてる!


 そない言うと「アホか」という声が返ってきた。声の主は、お父さん。

 朝、洗面所に行くと、お父さんがガルパン二人の制服を脱がせてた。


 分からん人に説明。お父さんは売れへん作家で、ほとんど一日部屋に籠もってパソコン叩いてる。で、作家にはありがちやねんけど、身の回りは「なんで、こんなもんが置いたある!?」というもんがゴロゴロしてて、まるでハウルの部屋みたい。

 そのガラクタの中で、ひときは目立ってるのが、作りかけの1/6の戦車。で、戦車だけやったら子供じみてるけど、納得はいく。どうもキショイのは、その作りかけの戦車に1/6の制服着た女子高生二人が乗ってること。こないだ来た美枝とゆかりは「かいらしい」言うて喜んでたけど、それは社交辞令のお愛想……。

「お愛想やと思てるやろ。伊東さんと中尾さんはちゃんと分かってる。お母さんが部屋片づけて人形触ってワヤにしたとき、お父さんがポーズと表情直したとき感動してたやろ。お愛想であの感動はでけへん」

「あの、一つ聞いてええ?」

 うちは歯ブラシに歯磨き付けながら聞いた。

「せやけど、なんでガルパンなん?」

「発想や。戦車と萌キャラいう、まったく別ジャンルのもんひっつけて肩身の狭い戦車オタクと、萌オタクに市民権を与えた。そればっかりやない。大震災で落ち込んだ茨城県の街を活性化させた。『アマちゃん』と並ぶ震災関係の作品としてはピカイチやと思うぞ」

「けどガルパンには震災の『し』の字も出てけえへんけど」

「そこが、押しつけがましいない、ええとこや。舞台を大洗にしただけで、年間何十万人いう観光客を増やした。六月には、いばらきイメージアップ大賞も受賞や。物書きとしては、大いに刺激を受ける」

「せやけど、そんなんバンダイの戦略とちゃうのん」


 お父さんは、正面を向いて改まった。


「……世の中に100%の善意なんか存在せえへん。企業の思惑と計算があって、それで地方の街が活性化する。それでええんとちゃうか? 明日香かて、来年は大学受けるんやろ。それて純粋に勉強しよ思てのことか?」

「それは……」


 どうも、元高校教師と作家という理屈こね回すのが上手い職業のせいか、丸め込まれそうになる。


「せやけど、お父さん」

「なんや?」

「その前はだけただけのお人形さん、なんとかしてくれへん。人形でもセクハラやで」

「明日香が歯ぁ磨いてるよって、しぶきが飛んだらかなんさかいな。はよ、顔洗え」

「もう……」

 うちは、ガシガシと歯ぁ磨いて顔を洗た。するとお父さんは、待ってたとばかりに人形を裸にした。

 制服を脱いだ人形は、下着代わりに白い水着を着てた。

「シリコン素材は色写りがしやすいんでな、保護のためや……」

 うちは、人形に軽いショックを受けた。脚の長さは人形のデフォルメやねんやろけど、ボディーは成熟した女そのものやった。お父さんは、その水着も脱がしてスッポンポンにすると、お湯で、さっと洗うて、ドライヤーで乾かすと、ファンデーションを粉にしたようなもんを、小さなザルに入れて振りかけた。

「こないすると、元の元気な姿に戻る」

「お父さん……やっぱ、変態や」

「ハハ、物書きはみんな変態。誉め言葉やなあ」


 こたえんオッサンや。


 部屋に戻って考えた。制服いうのは女を隠すようにできてる。なんでもないような子が、水泳の授業なんかで水着になると、同性でもドキってすることがある。友だち同士でも、あんまり、そういう話はせえへん……ただ美枝みたいな子ぉもおる。で、ゆかりといっしょになって心配なんかしてる。

 けど、心配してること自体が、自分自身の問題から逃げる口実……ああ、あかん、落ち込む。


 こういうときは母親譲りのお片づけを発作的にやる。中学のときのガラクタを整理。あらかたほかそ思てたら、中三のときにあげたバレンタインのお返しの空き袋が出てきた。きれいなポストカードと小さなパンツが入ってた。

「あ、人形にぴったりや」

 そない思て、一階へ。

「お父さん、よかったら、これ……」


 お父さんは生首の模型バラして脳みそをシゲシゲと眺めてた。やっぱりただの変態オヤジ……。

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