第65話〔女子高生甘う見たらあかんよ〕

高安女子高生物語・65

〔女子高生甘う見たらあかんよ〕



 遠くから見たら女子の他愛ない会話に見えたやろと思う。


 うちの話は他愛もなかった。総合理科のテストがガタガタやったいう話、自業自得。

 けど、美枝の話は違た。


 学校を辞めるかもしれへんいう話。これだけでもすごいのに、本題は、もっとすごい。

 義理のお兄ちゃんと結婚したいという、とんでもない話。


 美枝のお父さんとお母さんは再婚同士。で、互いの連れ子がお兄ちゃんと美枝。美枝が小学校の六年生、お兄ちゃんが中学の三年生。お互い異性を意識する年頃。それが親同士の再婚で兄妹いうことになってしもた。家族仲良うなれるために、お誕生会やったり家族旅行も気に掛けて両親はしてくれたらしい。で、二人ともええ子やさかい、仲のええ兄妹を演じてきた。


 それが、いつの間にか男と女として意識するようになった。


「あたしが、16に成ったときにね、お兄ちゃんが言うてん。ミナミでうちのお誕生会やったあと『美枝にプレゼント買うたるから、ちょっと遅れて帰る』お父さんとお母さんは、安心してあたしらを二人にしてくれた。店二三件見て、大学生としては、ほどほどのペンダント買うてくれた……」


「美枝、ちょっとお茶でも飲んで帰ろか」

「うん」

 あたしは気軽に返事した。心斎橋の雰囲気のええ紅茶の専門店。そこの半分個室になったような席。うちらが行ったら、店員さんがリザーブの札どけてくれた。お兄ちゃんは、最初から、その店を予約してたんや。あたし嬉しかった……けど、あんな話が出てくるとは思えへんかった」

「16言うたら、親の承諾があったら結婚できる歳やねんで」

「ほんま? あたしは、せいぜいゲンチャの免許取ることぐらいしか考えてなかった」

 それから、しばらくは、お互い大学と高校の他愛ない話しててん。ほんなら、急に二人黙ってしもて、お兄ちゃんは、アイスティーの残りの氷かみ砕いて、その顔がおもしろうて、目ぇ見て笑うてしもた。あたしは妹の顔に戻って話しよ思たら、お兄ちゃんが言うねん『美枝。オレは美枝のことが好きや』」



 言葉の響きで分かった。妹としてやないことが。



「……それは、ちょっとまずいんちゃう。あたしら兄妹やし」


 なまじ良すぎる勘が、あたしの言葉を飛躍させた。お兄ちゃんはその飛躍をバネにして、一気に本音を言うてしもた。

「義理の兄妹は結婚できる」

 あたしは、頭がカッとして、なんにも言われへんかった。それからお兄ちゃんとの関係は、あっという間に進んでしもた。

 連休の終わりに、明日香とラブホの探訪に行ったやんか。

 あれ、下見。

 明くる日、お兄ちゃんと、もういっぺん行った。ズルズルしてたら、ぜったい反対される。あたしは、お兄ちゃんとの関係を動かしようのないもんにしたかった」


「そんなんして、高校はどないするつもりやったん?」

「どないでもなる。出産前の三カ月は学校休む」

「せやけど……」

「よその学校の例を調べてん。在学中の妊娠出産はけっこうあるねん。私学は退学させることが多いけど、公立は、当事者が了解してたら、どないでもなる。そのことを理由に退学はさせへん」

「そんな、うまいこといく?」

「あかんかったら、学校辞めて大検うける。そこまで、あたしは腹くくってる」

「ゆかりは、知ってんのん?」

 美枝の固い決心に、言葉がのうて、うちはゆかりのことを持ち出した。

「ゆかりは、反対や。でも自信がないよって、明日香に相談できるようなとこまでもってきてん」

「え、そのために……!?」


 うちは、ショックやった。頼りにはされてんねんやろけど、混乱の方が大きかった。

――手ぇ握ったれ――

 正成のオッサンが、急に呟きよった。

「うちは、美枝の味方やで」

「ありがとう!」

 美枝は、つっかえが取れたように泣きながらうちに抱きついてきた。


 うちは、美枝のことを全部引き受ける気になってきた。


 美枝のお兄ちゃんに、最初に言う言葉は決まってた。


「女子高生甘う見たらあかんよ……」


 そのとき頭がクラクラしたんは、中庭いっぱいに満開になったバラのせいばかりやない。


 しかし、どこかで力抜かなら、うまいこといかへん。うちは、美枝から明日の試験の山を教えてもらうことで、なんとか心のバランスをとった……。

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