第56話『ミスドの誓い!』
高安女子高生物語・56
『ミスドの誓い!』
連休初日、うちは図書館に行った。
八尾の図書館は、三つある。うちが行くのは、一番近い山本図書館。
コミニュティーセンターの一二階が図書館になってる。この連休は、特別に出かける予定もないさかい、図書館で本を借りることにした。ま、タダで借りられるし、なんか飛び込みで予定入ったら、それはそれ。
で、思いもせんかったもんに遭遇してしもた。
本とちゃう。
田辺美保……うちの恋敵。気ぃついたんは向こうの方から。
「やあ、明日香やんか」
新刊書のコーナー見てたら、声がかかった。
美保先輩は、ベッピンでスタイルもようてファッションの感覚もええ。セミロングの髪をフワーっとさせて、ナニゲニ掻き上げると、ええ匂いがする。
「本借りにきたん?」
「う、うん。久々に」
「いっしょやな。この連休特に予定ないさかい」
うちと同じようなことを言う。
「この本面白いよ。ちょうど返すとこやねんけど、あんた借りひん?」
差し出された本のタイトルは『少女廷国』
「ちょっとホラーやねんけど、考えさせられるねん。中学の卒業式の会場に行く途中で、気ぃ失うて、気ぃついたら石で囲まれた部屋で寝かされてて、ドアに張り紙。N-M=1とせよて書いたある。それができたら、ここから出られる。で、ドアは二枚あるけど。片方はノブがないから、張り紙のある方にしか行かれへん。で、ドアを開けたら、同じ制服着た卒業生が寝てる。起こして、ドアを見たら同じことが書いてある。で、次々と部屋を開けていくと、同じように制服着た卒業生。せやけど、ぜんぜん知らん子ばっかり。そんな部屋がずっと続いて……あとは読んでのお楽しみ」
美保先輩のCMが面白いこともあったけど、うちは、どこかで美保先輩とは決着つけなあかんと思てたから『少女廷国』と、あと二冊借りた。
「ちょっと話しょうか」
カウンターで手続き終わったら、意外なほどの近さで美保先輩が言うた。なんのテライも敵愾心もない顔やったんで、近所の山本八幡に行った。ガラガラとベイマックスの顔みたいな鈴を振って手を合わせる。
「……なんの、お願いしたん?」
「なるようになりますように……」
「アハ、へんなお願いやね」
ちょっとバカにされたような気がした。せやけど美保先輩の顔には、相変わらずクッタクはない。
「うちがフラレても、先輩が……その」
「フラレても」
「ええ、まあ……だれも傷つきませんように」
「……ちょっと虫がよすぎるなあ」
「あ、すんません」
「さっきの本ね。扉は無数にあってね。卒業生も無数に居てるのん。で、M-N=1……つまり、みんなで殺し合いやって、最後の一人になれたら助かるいう話」
「なんや、バトルロワイヤルですね」
「結末は意外やけど、言わへんわね。ただ、だれも傷つかへんのは、無理やと思う。明日香、自分が学にフラレて平気でおれる?」
「分かれへんけど、そうあったらええなあて……そやけど、美保先輩やったら負けても納得はいくと思てます」
「ありがと。せやけど、それは明日香の負けてもともと言う弱気からやと思う。傷つくのん覚悟でかかっといで」
「うん……お神籤ひきませんか?」
「ようし、ええお神籤引いたほうが、マクドかミスド奢る。これでどや!?」
「セットメニュー除外言うことで!」
で、引いてみたら、二人仲良う中吉。ワリカンでミスドに行った。
「あんた、学に夜這いかけてんてな」
「え、知ってるんですか!?」
「学は言うてへんよ。あのときたまたまチャリで近く通ってたさかい。正直、あの状況だけでは確信もたれへんかったけど、今の返事でビンゴやな」
「あ、あれは(正成のおっさんのせいとは言われへん。信じてももらわれへんやろさかい)……」
「あれは未遂やったな。せやろ?」
「う、うん……」
「せやけど、ええライバルやと思た。うちも諦めたわけやないさかい、まあ、せえだいがんばろか」
「うん!」
「ええ返事や。ついでに言うとくけど、この連休は学との予定は無し。あいつも悩んどる。この連休はそっとしとこ。抜け駆けなしな。ほれ、指切り」
明るく指切り。
どんな結果になっても、美保先輩とは、ええ友達でいたいと思た。
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