第57話〔ガンダムの遠足〕

高安女子高生物語・57

〔ガンダムの遠足〕       



 学校の連休はカレンダー通り。


 せやから、今日みたいな日曜と昭和の日の間の月曜も学校がある。こんなんテンション下がって勉強になれへん。そない学年の始めは思たけど。今日は遠足……もとい、校外学習。

 一年の時はバスを連ねて摂津峡で飯ごう炊さん。あれはダルイ。240人でやってもおもんない。ああいうのは気の合うたもん同士で個人的にやるから面白い。

 しかし、たいていの学校は集団行動訓練いうことで、昔の軍隊みたいなことを平気でやらせよる。


 民主教育はどこ行ってん! ちょっと屁理屈。


 屁理屈言うてみたなるほどしょうもない。作るもんは、最初からカレーライスと決まってて、材料も炊飯用具もみんな貸してもらえる。これて手間かからんようで邪魔くさい。今はレトルトでええもんが、いくらでもある。ご飯用意して、かけたらしまいやねんけど、タマネギ刻んで炒めるとこからやらならあかん。目にはしみるし、手ぇについたタマネギの臭いは抜けへんし、鍋と飯盒の後始末大変やった。


 ところが二年になると、クラス毎に好きなとこに行ける!


 そない思てたけど、ガンダムが勝手に決めよった。一応決はとるけど、こんな感じ。

「……ということで、異議のあるもんはおらへんな。ほな、これで決定!」

 で、うちらは、三ノ宮の駅で降りて山手を目指す。隣の二組は港を目指して南京街。

「あんなもんは中学生までや。高校生らしいコースでいこ!」

 ガンダムの指揮で、うちらは北野の異人館街を目指す。南京街とどないちゃうねん……そう思たけど、ガンダムの目論見は違うた。


「……ホー(*_*;」

「……イヤー(*_*)」

「……すごいねえ( ゚Д゚)」

 と呟きながら、うちらは途中の道でヒソヒソと歓声をあげた。

 歓声いうのは、大きな声で言うもんやけど、ここではヒソヒソになる。


 なんでて、周りは……ラブホで一杯!


 ガンダムは、黙々と先頭を歩いてる。

「これは、実地教育やね」

 中尾美枝が言う。

「できたら、中も見学したいね」

 顔に似合わん伊藤ゆかりが大胆なことを言う。


 異人館街に着いたら、ガンダムが短く注意。


「おまえら三年もしたら大人や。せやから大人のデートコースを選んだ。特に何を見ろとは言わん。これから各館共通のチケットと昼食代渡す。好きなとこ回って好きなもん食べてこい。ほんならせいだい勉強してこい」

 副担任の福井先生と二人で手際よう配る。これから二時まで自由行動。

 うちらイチビリ三人娘は、さっきのラブホ街に行って、社会見学。美枝は休憩とお泊まりの値段をチェック。

「やっぱり、神戸のラブホはオシャレやな」

「わ、ここお泊まりで二万円もとりよる」

「きっとスイートやねんやろな」


 そこにクラスの男子が四人ほど連れもって来よった。


「惜しいな、三人やったら、ちょうど人数合うたのにな!」

 美枝が大きな声で言うと、男子はきまり悪そうに行ってしもた。

 外観をみてるだけやから二十分ほどでおしまい。うちらも異人館に入った。


 異人館には、それぞれエピソードがある。


 ある異人館は、ドイツのお医者さんが住んでて、戦争中も留まって、空襲で怪我をした人らの手当をしてた。せやけど、二十年の五月にドイツが降伏すると、日本は、このドイツ人のお医者さん家族を軟禁した。ちょっと日本人の嫌なとこを見た気がした。

「あ、この話て『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』で、はるかのお母さんがエッセーにした内容やと思うわ」

 ゆかりが、そない言うてアマゾンの書籍をチェック。

「う~ん、まだ発売されてへんなあ」


 お昼食べて集合したら、みんなでビーナスブリッジに行った。   


 螺旋階段付きの歩道橋。ここに来るのはちょっとしたハイキングやったけど、着いたらロケーションはバッチリやった。

「ここは、夜景がすばらしい」

 ガンダムが短い解説。

「ちょっと前までは、ここの手すりに愛のあかしに鍵かけるのんが流行った。今は、向こうに専用の鍵かけがあるからな。マナーは守らなあかん」

「先生、なんか思い出あるんちゃいますか?」

 美枝が言う前に、うちが聞いたった。

「ああ、カミサン口説いたんがここや」

「「「ウワー!」」」


 うちは、いつか関根先輩と来てみたいと思た。


 ああ、乙女チックやなあ……。

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