第47話〈新担任はガンダム!!〉

高安女子高生物語・47

〈新担任はガンダム!!〉       



 ゲ、ガンダム!!


 同じような声が、体育館のうちらの列からわき起こった。

 今日は、一学期の始業式。朝学校に行くと体育館の下の下足室入り口に新しいクラス表が貼りだしたった。一年で同じクラスやった子が五人いてるけど、あんまり付き合いのない子ぉらやったんで、特に感慨はない。ただ男子に学年一のイケメンとモテカワが居てるのが気になったぐらい。


 ま、その話はあとにして、始業式での担任発表。


 うちらは、3組なんで三番目の発表。ガンダムがおっさんは不思議やない。なんちゅうても生活指導部長。

「三組担任、岩田武先生」

 司会の先生が言うたとたんに、「ゲ、ガンダム!!」になってしもた。

「3組を鍛え上げることは、もちろん。二年生をOGHで最高の学年にしたるから、そのつもりで」

 それだけ言うと、ニヤリと方頬で笑うて、担任団の席に戻っていきよった。クラスのみんなは、怖気をふるった。


 なんで岩田武がガンダムなんかは、字ぃ見たら分かると思う。音読みしたら「ガンダム」。それに、その名にふさわしい程の頑丈さと、ひつこさ。


 校門前で、朝の立ち番してるときに、あの美咲先輩がスカートの中を盗撮されたことがあった。二百メートルほど離れてたけど、「コラー!」の一声と共に駆け出して追跡。なんと一キロ追いかけて犯人を捕まえた。ついでに途中で喫煙しとったS高校の男子生徒のシャメも撮って、S高校の生活指導に送り、ありがた迷惑にも思われた。で、これだけの大立ち回りしながら息一つ乱れへんポーカーフェイス……いかにもガンダム。せやから、さっきの挨拶で方頬で笑たんは、極めて異例で、クラスのみんなが怖気をふるうたのも無理はない。


 演劇部辞めてから、学校にアイデンテティーを感じひんようになったうちでも、この展開は興味津々や。


 で、クラスのイケメンとモテカワ。


 イケメンが安室並平。なんかアンバランスな名前やけど、うちの趣味やないんで、ようもててるいう以上のことは、よう分からへん。

 モテカワは南ララァ。名前の通りカナダからの帰国子女。日本人のお父さんとカナダ人のお母さんに生まれた子ぉらしい。色はちょっと黒いけど、これは水泳部で普段から体を焼いてるから。地は色白やと、同じ水泳部の女子の弁。髪は水泳部にありがちな傷んだ自然な茶パツ。この自然な茶パツが、とてもワイルドで、その下には信じられへんくらいの可愛い顔。むろんプロポーションは抜群。


「暫定的に、学究委員長は安室。副委員長は南。学年始めはいろいろあるから、二人とも、しっかり頼む」


 ガンダムが、口数少なに言うた。みんなも「さもありなん」と納得顔。

 なんで、イケメンとモテカワで納得やねん!? うちは、そない思た。

「これで、シャアがおったら、完ぺきや」

 横の席の保住いう男子が呟きよった。


 うちはガンダムには詳しないよって、終わってからスマホで検索した。アムロが主役で、ララァいうのが、永遠のヒロイン。シャア言うのんがシオン軍のボス。で、担任がガンダム。


 確かに出来すぎ。ちゅうか……波乱の予感がした。


 波乱というと、午後の入学式。


 うちらは出席の義務は無いねんけど、うちの中に居てる正成のオッチャンが興味を示したんで、体育館のギャラリーで見ることになった。

「ただ今より、平成26年度入学式を挙行いたします。国歌斉唱、一同起立!」

 司会の教頭先生が言うたとたんに、うちは気をツケして、直立不動で『君が代』を音吐朗々と歌い出した。


――え、うちて、こんなに歌上手かった!? で、むちゃ恥ずかしい!――


 みんながギャラリーのうちのこと見上げてる。言うときますけど、今うちに歌わせたんは正成のオッサン。

――和漢朗詠集の読み人知らずの名歌やな。これを国歌にしてるとは、なかなかや!――

 オッサンは一人で感心しとる。

 式のあと、校長室に呼び出された。

「あんな立派な独唱は、甲子園ぐらいでしか聞かれへん。君は大した子ぉやな!」

 来賓の指導主事のオッチャンに誉められた。

「チェンバレンが、こんな英訳しております」

 正成のオッサンが、勝手に言わす。


 A thousand years of happy life be thine!

Live on, my Lord, till what are pebbles now,

By age united, to great rocks shall grow,

Whose venerable sides the moss doth line.


 いつのまに正成のオッサンは勉強したんや、はた迷惑な!


 うちの新学年も波乱の兆し……。


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