第46話〈オッサン出しゃばり過ぎ!〉

高安女子高生物語・46

〈オッサン出しゃばり過ぎ!〉       



 気ぃついたら電話してた。


 誰にて……関根先輩に。


「明日、10時に山本球場横の玉串川の四阿(あずまや)のあたりに来て……訳は来たら分かります」

 この言葉も、あたしの意志とは無関係に出てきた。

――無関係やあらへんぞ。明日香の心の底にあるもんをちょっと後押しして言わせたっただけや――

 と、正成のオッサンは心の中でニヤニヤしてる。我ながら、けったいなもんを住まわせたもんや。

 10チャンネルの『満点青空レストラン』見てたら、八尾の若ゴボウの料理をやってた。

――おお、ヤーゴンボウやんけ。あの天ぷらてな料理美味そうやんけ、わい、あれ食いたい!――

「今日は、もう晩ご飯食べたから、今度!」

――明日にせい。その代わり、明日香の悩みは解決したるさかいに――


 嫌な予感を抱えながら、うちは自分の部屋に戻った。


 正成のオッサンとは、簡単な協定を決めた。お風呂とトイレ入るときはうちの中から抜け出すこと(ウォシュレットで、オッサンが嬌声をあげたんで、風呂だけやのうて、トイレまで付いてきてることが分かった。家族への説明に困った) うちにことわり無く、うちの人生に関わるような大事なことには関わらんこと。

 しかし、さっきの電話の件でも危ないもんや。うちは、なんとか自分の意志でオッサンの出入りをコントロールしようとした。でも、やり方が分からへん。ねばり強う考えよ。


 正成のオッサンが住み着くようになってから、昔の戦の夢をよう見る。


 たいてい赤坂の山に籠もって、幕府軍とにらみ合うてるときのオッサンの思い出。


 山肌を駆け上ってくる幕府軍にグラグラに煮えたウンコ混じりのオシッコを柄杓で撒く。わら人形にヨロイを着せて、敵に矢を撃たせて、不足気味な矢を敵からいただく。意表を突く戦法みたいやけど、これは『三国志』の中の赤壁の戦いで、諸葛孔明がとった戦法の応用やいうことが分かった。ガラの悪さに似合わず勉強家やいうことが分かる。お風呂やトイレには付いてくるくせに、部屋に居るときは、どないかすると何時間も、他の本の中に居てたりする。

「正成のオッチャン、本読んだら分かったやろ。楠木正成は湊川の戦いで戦死するねんで……」

――おお、分かってる。予想以上の最後に、自分でも感動しとる。しかし、歴史にはアソビがある。大きいは変えられへんけど、細かいとこでは創意工夫がでけそうや。わいは、今ワクワクしとる――


 さすがは河内の英雄。感受性が並の人間とはちゃうみたいや。


 で、日が改まって、日曜日。


 昨日の雨の隙をつくような曇り空。玉串川の四阿で関根先輩に会うた。


「花見には、ちょっと残念な空模様やな」

「これくらいがええんです。人も多ないし。ゆっくり語り合うのにはピッタリです」

 ここまでは、あたしの意志。あとは正成のオッサンが、うちの口から勝手に喋ったこと。

「なんや、今日の明日香は、まっすぐオレのこと見るねんなあ」

「うち、先輩のこと好きやさかい」

「え、ええ、こんなとこでコクルか?」

 確かに四阿はうちらだけやのうて、お年寄りが三人居てた。興味深そうに、うちらのこと見ながら。この他人のことにもろに興味持つのは、今も昔も変わらへん河内根性かもしれへん。

「うち、美保先輩には負けへん。うちのバージンを捧げるのは先輩やと決めてます。せやから、先輩も……いや、学君も言うてほしい、ホンマの気持ちを!」

「お、おい。人の目ぇがあるやろ」

 先輩は、大きなヒソヒソ声。三人の年寄りはニマニマとうちらの成り行きを見てる。

「人の目ぇがあっても、好きは好き。これくらいに!」


 うちは、先輩に胸を押しつけて抱きついた。


「あ、明日香……!」

「答え聞くまで、離れへん!」

「お、オレも明日香のことは……」

「好きやねんね!?」

「あ、ああ……」

「よっしゃ、今日は、ここまででええわ! ほんなら、山本の方まで歩きましょか」



 うちは、先輩にベッチャリひっついて山本の方に川沿いを歩いた。


 先輩の当惑と、うちへの好意が同量に感じられた。山本へは10分ほどで着いた。


「ほなら、新学期になってもよろしゅうに!」

 山本駅に着いたら、うちは、あっさりと先輩と別れた。ちょっと名残惜しい。


――色恋は、戦とおんなじや。駆け引きが大事。今日は、ここであっさり引いて、あいつの中に明日香を温もりの記憶として染みこませる――


 それはええけど……。



――なんやねん?――


 オッサン、出しゃばり過ぎ!


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