第39話〈有馬離婚旅行随伴記・4〉

高安女子高生物語・39

〈有馬離婚旅行随伴記・4〉        



 殺されてたのは新興暴力団のオッチャン。


 見た感じは、普通の会社員みたいやったけど、いわゆる経済ヤクザというやつで、うちのお父さんなんかより。よっぽど株やら経済に詳しいインテリさん。

 で、なんで、このインテリヤクザが、明菜のお父さんの部屋で死んでたか?


 どうやら、対立の老舗暴力団とトラブって、温泉に潜んでいたらしい。ほんで、見つかって逃げ込んだんが、明菜のお父さんの部屋。本人の部屋は隣りなんで、どうやら、逃げるときに間違うたらしい。激しく争うて奥の部屋はメチャクチャ。で、お父さんのジャケットが窓から外に飛び出した。


 ここから誤解が始まる。


 警察は、逃げてきたヤッチャンと明菜が部屋で出くわして、明菜が騒いでトラブルに。ほんで、なんかのはずみで、ヤッチャンが持ってたナイフで刺し殺した。

 ほんでから、ここからが大問題。


 正当防衛か、過剰防衛かで、もめた……。


 うちは、必死で説明したけど、警察は女子高生が友達を助けるためにウソついて庇うてると思てる。

 うちは思た。いっそ誰かが露天風呂覗いて盗撮でもしてくれてたら、証拠になったのに。


 証拠というと、血染めのナイフ。てっきり撮影用の偽物や思たから、明菜は気楽に握った。ベッチャリと明菜の指紋が付いてる。それから、慌てふためいてるうちに明菜の浴衣には、血が付いてしもてる。状況証拠は真っ黒け。


 さらに悲劇なんは、明菜のお父さんもお母さんも、警察の説明を信じてしもて「正当防衛!」と叫んだこと。もう、信じてるのはうちしかおらへん。ごっついミゼラブルや。がんばれ、女ジャンバルジャン!


 うちは、無い頭を絞った。明菜のためにガンバルジャンにならなあかん。


 お父さんの売れへん小説を思い返した。

――プロの殺しは、一目で分かるような証拠は残さへん――

 小説一般のセオリーや。ヤッチャン同士のイサカイに、今時古典的な鉄砲玉は使わへん。

 プロを雇うてるやろ。せやから足の着きやすいチャカ(ピストル)は使うてへん。ホトケさんには防御傷がない。部屋の中を逃げ回ったあげく、ブスリとやられてる。警察は逆に明菜が逃げ回った時に部屋がメチャクチャになった思てる。


 で、もう一つ気いついた。


 プロの殺しやったら、すぐに逃げたりせえへん。目立つからや。犯人は予定通り泊まって、気楽に温泉に浸かって帰りよるやろ。プロの仕事は目立たんこっちゃから。


 明菜のお父さんとお母さんはウロがきてしもてる。例え正当防衛にしても明菜が殺したいう事実は残る。明菜の心には癒されへん傷が残るやろと思てはる。


 うちは、なんとしても明菜の無実を証明したいと、思た……。


☆ヒント……犯人は、すでに〈有馬離婚旅行随伴記〉の中に出てきています。


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