第40話〈有馬離婚旅行随伴記・5〉

高安女子高生物語・40

〈有馬離婚旅行随伴記・5〉   



 明菜のお父さんが逮捕されてしもた!


 逮捕理由は、お父さんが杉下さんいう音響係の人といっしょになって、拳銃殺人のドッキリをやったときの血染めのジャケット。

 ジャケットに付いてた作り物の血に、なんと大量の被害者の血が混じって付いてた。


 話は、ちょっとヤヤコシイ。


 ドッキリを面白がった番頭さんが、そのジャケットを借りて、休憩時間中の仲居さんらを脅かしてた。

 で、最初、警察は番頭さんを疑うた。しかし、番頭さんにはアリバイがある。お客さんを客室へ案内して仕事中やった。

 お父さんは、この旅館には泊まり慣れてて、番頭さんとも仲ええし、旅館の中の構造にも詳しい。

 殺人事件のあった時間帯は、旅館の美術品が収められてる部屋で、一人で、いろいろ美術品を鑑賞してたらしい。事件に気づいて部屋の鍵を返しにロビーへ行ったけど、警察は、これを怪しいと睨んだ。

 美術品の倉庫に入るふりして、番頭さんに貸したジャケットを着て被害者のヤッチャンを殺し、殺した直後ジャケットを番頭さんのロッカーにしもた。そう睨んでる。


 ただ一つ誤算があって、第一発見者が明菜で、明菜が犯人にされてしまい。お父さんは必死で正当防衛やと……叫びすぎた。で、警察は逆に怪しいと睨んだ。調べてみると、アリバイがない。その時間、美術倉庫の鍵は借りてたけど、入ってるとこを見た人がおらへん。ほんで、お父さんが触った言う美術品からは、お父さんの指紋が一切出てけえへん。


「美術品触るときは、手袋するのが常識じゃないですか!?」


 なんでも鑑定団みたいなことを言うたけど、警察は信じひん。お父さんは、ドッキリ殺人のあと、一回この美術倉庫に来てる。せやから、ドアなんかに指紋が付いてても、一回目か二回目か分からへん。お父さんは一回目で、ええ茶碗見つけたんで、もっかい見にいった……これは、いかにも言い訳めいて聞こえる。


「うちの主人は、そんなことをする人間じゃありません。わたし、美術倉庫の方に行く主人を見かけています」



 身内の証言は証拠能力がない。例え離婚寸前でも夫婦であることに違いはない。


 まずいことに、お父さんの会社は資金繰りが悪く、ある会社から融資をしてもらっていたが、その資金の出所が、殺された経済ヤクザのオッチャンの組織。



「そんなことは知らなかった」

「知らんで通ったら警察いらんのんじゃ!」

 と言われ、ニッチモサッチモいかなくなった。


「明菜、あんたの疑いは晴れたけど。今度はも一つえらいことになってしもたな」

「ええねん、これで」

「なんでやのん、お父さん捕まってしもたんやで?」

「今度はドッキリとちゃう」

「あんた、まさかお父さんが……」

「あほらし。お父さんは、そんなことでけへんよ。なあ、お母さん」

「そうや、せやけど、警察は身内の証言は信用しないし……」

「お父さんの疑いが晴れたら、全部うまいこといく、家族に戻れる。あたしは、そない思てんねん」


 親友明菜は、しぶとい子や。うちは、そない感じた。


 そのためにも真犯人見つからんとなあ……。


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