第35話〔なんで付いていかなあかんのん!?〕
高安女子高生物語・35
〔なんで付いていかなあかんのん!?〕
なんで付いていかなあかんのん!?
思わずダイレクトに聞き返した。
明菜が、離婚旅行に付いてこいと言うてきた。
明菜のええとこは、人に接するのが前向きなこと。
普通メールで済ますことでも、ちゃんと電話してくる。
せやけど、この距離の取り方と、とんでもない切り口から切り出すのは、人によってはどん引きされる。
一昨日の「ナポレオンの結婚式の日やから合お」なんか、あとの話聞くとウィットやけど、人によったら「ケッタイなヤっちゃなあ」で、敬遠される。せやから、明菜には友達が少ない……なんや、流行りのラノベのタイトルみたいや。
ほんで、結局は、いっしょに付いていくことになった。うちも変わり者ではある。
まあ、アゴアシドヤ代持ってくれる言うんやから、離婚旅行の付き添いいうことを除けばええ話や。
目的地はハワイ……とまではいかへんけど、有馬温泉。
明菜のお父さんのセダン……左ハンドルやから外車やいうのは分かるけど、メーカーまでは分からへん。革張りのシートにサンルーフ。後部座席には専用のテレビに、バーセットまで付いてる。なんでか、うちの日常では見慣れたリアワイパーは付いてなかった。
「ああ、リアワイパーが無いのが不思議なんだね?」
お父さんが、うちの不思議を見破って、すぐに聞いてくれはった。アクセントは関西弁やけど、言葉は標準語。純粋の河内のネエチャンであるうちには、これだけで違和感。
「なんで付いてないんですか?」
かいらしく素直に聞いておく。
「国産のワンボックスなんかだと、車のお尻とリアウィンドウが近くて、泥が付きやすいんでね。セダンはお尻が長いから付いてなんだ」
「そうなんですか」
と感心してたら、前走ってる日産のセダンには付いてた。
「フフ、分かり易いけど、知ったかぶりでしょ」
お母さんが、鼻先であしろうた。
「僕のは一般論だよ。むろん例外はある。日本人にとっては、バックブザーと同じく親切というか行き届いていることのシンボルなんだね。ま、民族性といってもいい」
お父さんは、構わずに話をまとめた。
「前の車、邪魔ね。80制限の道を80で走るなんて、ばかげてる」
サービスエリアで、休憩したあと、運転をお母さんが替わって、第一声が、これだった。
「始末するか……」
ゴミを片づけるような調子で、お母さんが呟くと、ウィーンと機械音がした。明菜もなんだろうって顔をしている。
地獄へ堕ちろぅお!
スパイ映画の主人公みたいなことを言うと、いきなり機関銃の発射音と、衝撃、そしてスモークが車内に満ちた。お母さん以外の三人はぶったまげた。
で、前を走っていた車は……あたふたと道を譲った。
「おまえ、おれの車いじったのか?」
「離婚記念にね。大丈夫、映画用のエフェクトだから弾は出ないわ。ここ押すとね、車内だけのエフェクトになって、外には聞こえないわ。今のは若いニイチャン二人だったから、ちょっとイタズラ。まちがってもヤクザさんの車相手にやっちゃいけません」
「こういうバカっぽいとこ、好きだな」
「こんなことで、離婚考え直そうなんて、無しよ」
「それと、これとは別」
「だったら、結構」
「おかげで、時間通りに着けそうだな」
お父さんは時間を気にしているようだった……。
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