第31話〔今日は卒業式や〕

高安女子高生物語・31

〔今日は卒業式や〕       



 正式に言うと卒業証書授与式


 卒業式の方がしっくりくるし、正式名称なんか看板と、開会式の時の開会宣言のときぐらいで、先生も生徒もごく普通に「卒業式」とよんでる。

 入学式は、ただの入学式や。バランスからは、やっぱり「卒業式」の方がぴったりくる。


 なんで、こんなしょーもないことにこだわってるかというと。うちら一年は式に出られへんから。

 うちは馬場先輩から絵ぇもらうんで、礼儀上式の間は学校に居てならあかんから。で、担任の毒島先生に式次第もろて、そのタイトル見て疑問に思たわけ。


 調べてみると、文科省では卒業式になってる。まあ、細かいことなんで、どない呼ぶかは、学校やら教育委員会任せらしい。


 ことは、明治の昔に遡る。


 当時は、小学校は年齢関係なく、試験(筆記と口述)の結果によって進級が決まるシステムやった。新しい時代になり、優れた人材を育てることが、日本を成長させると考えられたから。そんな中、子どもをがんばらせるために、試験は保護者や一般の人たちに公開されてた。

 ただ、試験を見てても一般の人には優劣がわからへん。そこで「誰がよくできる子なのか」が最もわかりやすい方法として、及第点を取って進級した子へ、試験後に証書の授与が行われるようになった。当時は進級が「卒業」と呼ばれてたから、これこそが卒業証書の授与やったってわけ(以上、お父さんから聞いた内容)。


 おもしろいなあと思た。


 古い日本のことはなんでも否定しにかかってる先生らが、こともあろうに明治時代の否定すべき名称を平気で使うてる。

 それやったら、君が代やら日の丸やら仰げば尊しやらを否定してるのと矛盾する。そない思わへん?


 寒かったら、どないしょうかと思たけど、今日は三月中旬なみの暖かさ。式場の外で待ってても、そない気にはなれへんかった。


 気になったんは、先生ら。


 三年と二年の担任は生徒が式場に入ってるんで、自分らも式場に入ってる。



 わけ分からへんのは、それ以外の先生。


 誘導やら受付は分かるけども、何するでもなく、校内やら、どないかすると職員室でブラブラしてる先生が居てること。

「そういう先生ら、シャメ撮ってみい。きっとおもろい反応しよるで」

 で、式が始まってから、そういう先生らをシャメってみた。


 おもしろかった!


 式が始まるまでは、ニコニコ写ってた先生らが、式始まると、スマホ向けると顔を背けよる。

 うちは、やっとピンときた。この先生らは、式場で君が代歌うのがイヤやねんわ。

 最近は、府教委から参列したエライサンが、先生らの口元まで、チェックしてるらしい。なんやケチクサイ話やけど、君が代歌わんために、式場の外ブラブラしてる先生らもおかしい。

 ヒマやから、組合の分会長やってるA先生に聞いてみたった。

「なんで、卒業証書授与式ていうか知ってますか?」



「え……」


 完全に虚を突かれた顔になる。

 で、うちは、その由来を説明して、反応を見る。



「これて、明治絶対主義の残滓やと思うんですけど。なんで日の丸、君が代みたいに反対せえへんのですか?」

「そ、それはやな……」

「組合の上の方から言うてけえへんからですよね」

「そ、そんなことは……」

「それて、戦時中に上の言いなりになってた教師と同じとちゃいますノン……なんちゃって」

 と、ニコニコ顔で、さらにシャメを撮る。

「佐藤、まさか、そのシャメ、ブログに使たりせえへんやろな!?」

「それは、うちの表現の自由です」


 そうやって、先生をおちょくってるうちに式が終わった。


「ほい、約束の絵だ。十年もしたら、すごい値段が付くかもしれないぜ」


 馬場先輩は、お茶目な顔で、大きな袋に入った肖像画を渡してくれた。

「ありがとうございます。うちの一生の宝物にしますよって……これ、ささやかやけど、お礼と、卒業のお祝いです」

 うちは、用意してた花束を渡した。

「いやあ、礼を言うのはオレの方だよ。いい勉強させてもらった」


 予感がしたんで、家に帰ってから、OGH卒業式で検索したら……やっぱりあった。



――麗しい卒業のお祝い。二人はラブラブ――

 キャプションが付きで写真が載ってた。

――第二ボタンをもらうような関係では、ありません。第一に肖像権の侵害や!――

 と、コメントを付けといた。


 描かれた馬場さんの絵を部屋に飾る……ため息一つついて何にも言えへん明日香でした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る