第21話〔まどか 乃木坂学院高校演劇部物語〕

高安女子高生物語・21

〔まどか 乃木坂学院高校演劇部物語〕    



 朝から雪……積もったらええのになあ。


 保育所のころ雪が降って園庭にいっぱい積もったことがある。保育所のみんなで遊んだ。雪合戦したり、雪だるまこさえたり。関根先輩も、ただのマナブくんやった。美保先輩はミポリンやった。

 今やから言えるけど、マナブくんやった関根先輩と、その雪でファーストキスしてしもた!


 雪合戦してたら、こけてしもてマナブくんに覆い被さるように倒れた。ほんならモロに唇が重なってしもて、あどけなかったマナブくんは真顔で、こない言うた。

「赤ちゃんできたらどないしょ!?」

「え、赤ちゃんできんのん!?」

「キスしたら、できるて、レッドカーペットで言うてた」


 うちは、マナブくんの赤ちゃんやったら生んでもええと思た。いや、シメタと喜んだ。


「そないなったら、ぼく責任とって、アスカのことお嫁さんにするからな!」

 もう天にも昇る気持ちやった。そやけど、夢は一晩で消えてしもた。明くる日マナブくんは、こう言うた。

「キスだけやったら、赤ちゃんでけへんねんて。なんや、他にもせなあかんらしいけど、大きならんと神さまが教えてくれへんねんて」

「それて、いつ教えてもらえんのん?」

「さあ、いつかやて……」

 そこまで言うたら、マナブくんはトシくんによばれて、園庭に走りにいった。

 昨日の雪は溶けてしもて、雪だるまもだらしなく溶けてた。


 あれからや、マナブくん……関根先輩のことずっと好きや。


 うちは一途な女や。


 今は、もう赤ちゃんの作り方は、しっかり知ってる。関根先輩、美保先輩と……あかんあかん、妄想してしまう。

 気を取り直して、本を読む。で、雪が積もるようやったら、雪だるまこさえよ。


「まどか 乃木坂学院高校演劇部物語」の最初のページを開く。


 ドンガラガッシャン、ガッシャーン……!!


 タソガレ色の枯れ葉を盛大に巻き上げ大道具は転げ落ちた。一瞬みんながフリ-ズした。

「あっ!」

 講堂「乃木坂ホール」の外。中庭側十三段の外階段を転げ落ちた大道具の下から、三色のミサンガを付けた形のいい手がはみ出ていた。

「潤香先輩!」

 わたしは思わず駆け寄って、大道具を持ち上げようとした。頑丈に作った大道具はビクともしない。

「何やってんの、みんな手伝って!」

 フリ-ズの解けたみんなが寄って、大道具をどけはじめた……。


 ドラマチックな描写から物語は始まる!


 主人公まどかの乃木坂学院高校演劇部は27人も居てる大規模常勝演劇部。それが、コンクールで破れたことやら、クラブの倉庫が火事になったりで部員がゴッソリ減り、顧問の貴崎マリ先生も責任を問われ学校を去っていく。クラブは存亡の危機にたたされ、ほとんど廃部になりかける。

 あくまで、演劇部を続けたいまどかと夏鈴と里沙は、廃部組とジャンケン勝負で勝って、たった三人で演劇部を再興して、春の演劇祭で、見事に芝居をやりとげる。ほんで、大久保クンいう彼氏もゲット!


 文章のテンポがええし、どんでん返しやら、筋の運び方が面白いんで、昼過ぎには読み終えてしもた。


 演劇部を辞めたばっかしのあたしには、ちょっと胸が痛い。そやけど、まどかには、頼りないけど夏鈴と里沙いう仲間がおった。うちは残ってもまるっきりの一人や。やっぱし、うちの決断は正しいと思う。まだ二年ある高校生活無駄にはしたないよって……。


 読み終えて、ベランダから外を見ると、雪はすっかり止んでピカピカの天気……にはなってなかったけど、ドンヨリの曇り空。雪だるまはオアズケ。

「お母さん、お昼なんかあったかなあ……」

 そう言いながら階段を降りたら、お父さんが一人で生協のラーメン食べてる。

「お母さんは?」

「なんや、今里のお婆ちゃんが骨折して入院やいうて出かけていった……明日香にも声かけてたやろ」


 思い出した。乃木坂の演劇部が潰れそうになったあたりで、なんやお母さんの声がした。うち、適当に返事してたような……。


 乃木坂のまどかが、すごい偉い子ぉに思えてきた……。


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