第20話〔明日香の道草〕

高安女子高生物語・20

〔明日香の道草〕        



 放課後、直ぐに帰れるのは嬉しい!


 今までは部活で時間とられて、学校出るのは日が落ちてからやった。

 それが、明るいうちに出られる。なんという開放感!

 混みまくりの下足室も電車の中も、行きはあんなにウットシイのに、帰りは嬉しい!


 鶴橋で準急が出てしもた後で、高安止めの各停。次の準急が先着やのん分かってたけど乗る。


 車両が急行仕立てで、二人がけの前向きシート。進行方向に向かって座ると、ちょっとした旅行気分。上六から来た急行が高安の操作場までカラで戻すのんもったいないさかい、高安まで各停に使てる。近鉄の無駄のないダイア編成っちゅうか、商売ぶり。


 鶴橋を出て、すぐ今里。お婆ちゃんの家があるけど、やっぱり電車の中からでは見えへん。

 空で飛行機が止まってる……ように見える。動いてるものから、動いてるもの見ると止まってるように見える。物理で習たナンチャラいう現象で、田舎の見通しのええ田んぼの中の交差点で交通事故が起こるのは、このせいらしい。しかし、ジェット機が空中で止まってるのは、なんともシュール。


 布施で、ドカドカと人が乗ってくる。


 オケツの大きいオバチャンが「ごめん」も言わんと、横に座ってきた。ウットシイ。オバチャンの温もりを肌で感じる。まあ、オッサンが座るよりはええけど……「ごめん」の一言があったら、お互い様と思えて、温もりも、こんなにキショイとは思わへんねんけどなあ。ほんまに大阪のオバハンは……うちは、こうはならんとこ。


 長瀬で、近大の学生やら近高の子ぉらが乗ってくる。さすがにギュ-ギュー。せやけど、次の弥刀で、ぎょうさん降りる。駅の改札が南側にしかないよって、先頭車両は、ここでゴソッと空く。隣のオバチャンも降りた。二人用シートを独占。ちょっとええ気持ち。

 二本電車の通過待ち。けど気にならへん。早よ帰れるいうのは、こないに精神衛生にええもんやとしみじみ思う。


 久宝寺口、八尾と過ぎて、山本。急に図書館寄りとなって、ふらりと降りる。

 北の改札から出て、山本八幡を横目に殺して、向かいの道路に。マクドの前を通って、ミスドの手前で右に曲がる。直ぐにコミセン(市役所の支所)その一二階が図書館。

 一階の新刊書コーナー……なんかないかなあ。


 え、うそ、あった!


「まどか 乃木坂学院高校演劇部物語」


 この本は、中味はええらしいねんけど、表紙が今イチ。それにラノベとしては高すぎる1200円プラス税。一回ジュンク堂で見たけど、以上の二つの理由でやめた。他にも二冊借りよ思たけど、読まんと返す確率高いよって、これだけにしとく。

 

 図書館出て、市営駐輪場を南に曲がると近鉄信貴線。運の悪いことに一時間に八本しか通らへん踏切が閉まってる。二両連結の二両目に目が止まった。


――  関根先輩!  ――


 なんで関根先輩、信貴線に……それも、美保先輩と仲良しそうに。

 気ぃついたら、制服のまま自分のベッドでひっくり返ってた。涙が一筋横に流れていく。


 しょうもない道草になってしもた。


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