第17話〔志忠屋のリニューアル〕

高安女子高生物語・17

〔志忠屋のリニューアル〕        



 メールを見てびっくりした!


 と言うても、あたしのスマホとちがう。お父さんのパソコン。


 小山内先生が、うちのパソコンにメールを打ったから。演技についての長いダメやら注意をスマホで送るのは大変やから。うちでパソコンのメールはお父さんのパソコンでしか受けられへん。なんでか言うと、お父さんはケータイが嫌いで、今時スマホはおろかケータイも持たへん原始人。まあ、パソコン相手に仕事して、ほとんど家から出えへんので、必要性はあんまりないんやけど。


 で、小山内先生のメールの後に入ってたお父さんのメールを開いてしもた。


―― すみません、なんだかんだで思ったより手間取りましたが、2月3日 月曜日 17時30分よりリオープンいたします。チーフ中村の“ローマ風ピッツア”や小皿料理をラインナップに加え、ラストオーダー24時の夜型営業の店として再スタートします。ランチのお客様には、引き続き ご迷惑をおかけいたしますが、新しい志忠屋に 是非お越し下さい。チーフ中村共々、心よりお待ち申し上げます。尚、お越しのお客様全員、リオープン記念 10%サービスさせていただきます。 志忠屋店主 滝川浩一 ――


           


「ええ、そんなあ!」


 思わず声が出てしもた。

「なんや、ああ……志忠屋か。いよいよリニューアルやねんな。明日香、いきたかったんか?」

 お父さんに聞こえてしもた。

「あ……ランチタイムに行ってみたかったさかい」

「ま、しばらくしたらランチタイムもやるやろ。もうちょっとの辛抱や」

「うん……」


 志忠屋のオーナー滝川さんとお父さんは四十年の腐れ縁らしい。二人の関係につぃては。いろいろあるけど、べつの機会に。


 志忠屋へ初めて行ったんは、中学に入ってちょっとしたころ。お父さんの退職の挨拶兼ねて、お母さんと三人で行った。志忠屋はシチューとパスタをメインにした南森町にある客席16のかいらしい店。

 出てくる料理は美味しかった。お母さんが逆立ちして百年たってもでけへんような料理ばっかし。文字通り味を占めたあたしは、何回かランチタイムのときに一人で行った。

 中三のとき、進学でお母さんともめてたときに相談に乗ってくれた。ランチタイム終わってアイドルタイム(準備中)になっても、相談は続いた。

「まあ、どっち行っても、似たり寄ったりやけどな」

 オーナーのタキさんは、そない言うてたけど、お父さん通じてお母さんを説得してくれて、今のOGH高校に行けた。

 入ってみたら、思てたほどの学校やなかったんで、タキさんの言うてたことは、大当たり。


 それから一年。


 近いうちに進路のこと相談しよ思てたんやけど、しゃあないなあ。ピッツァやら始めるらしいけど、あたしの好きなパスタは、またやってくれるんやろか……。


 タキさんに相談したかったんは、クラブ辞める決心付けさせてもらうことと、演劇科のある大学に進学すること。

 高校演劇は、もうあかんと思てる。一年やってよう分かった。本選で観たK高校も、OPFで観たO高校も学芸会や。見かけは立派やけど、芝居はヘタ。去年鳴り物入りで全国大会で優勝したT高校も小器用なだけ。今年だけかも知れへん。なんせ、近畿大会では大阪は全滅やった。で、うちのOGH高校は、その予選で落ちた。

 確かに、審査員の浦島太郎はドシガタイけど、あいつを納得させるだけの芝居がでけへんかったことも確か。

 で、来年クラブを担う美咲先輩も辞めてしまう。こんなショボイ大阪の高校演劇のクラブでアクセクしててもしゃあない。

 せやけど、将来はキチンとした役者にはなりたい。


「なんや、明日香、そんなに志忠屋のパスタ食いたかったんか?」

「うん……」

 半分はほんまやから、素直に頷く。

「ほんなら、また連れてったるわ」

 お父さん、まるで小学生に言うみたいに優しげに言うてくれた。せやから小学生レベルの肯き。

 本心見破られんのいややから、二階のリビングに。

 棚の上にケースに入った大阪城の天守閣。

 ちっちゃい頃に親子三人で、よう大阪城に行った。その記念にお父さんがこさえたプラモ。その横に彦根城……この意味は、よう分からへん。分かる余裕も、今のうちには無い。


 あ、小山内先生のメール読むのん忘れてた。


「ごめん、お父さん、もっかい見せて」

 読んでみると、高度な要求が一杯。


 あたし、芸文祭は適当でええねん。


――分かりました、ご指導ありがとうございました――


 そう打って、おしまい。ああ、志忠屋に行きたいなあ!

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