第16話〔明日香のナイショ話〕

高安女子高生物語・16

〔明日香のナイショ話〕       



 ここに書いたらナイショにならへん。


 そう思てる人は、大阪人の感覚が分からん人です。

 うそうそ、最後には分かる仕掛けになってるさかいに、最後まで読んでください。


 実は、演劇部辞めよか思い始めてます。


 一週間先には芸文祭。ドコモ文化ホールいう400人も入る本格的なホール。難波から駅二つ。NN駅で降りて徒歩30秒。ごっつい条件はええんです。

 せやけど、観にくるお客さんが、ごっつい少ない……らしい。

 うちは一年やさかい去年のことは、よう分からへん。

「まあ、80人も入ったら御の字やろなあ」

 今日の稽古の休憩中に美咲先輩が他人事みたいに言う。

「そんなに少ないんですか!?」

「そうや。コンクールかて、そうや。予選ショボかったやろ」

「せやけど、本選はけっこう入ってたやないですか」

「さくら、あんた大阪になんぼ演劇部ある思てんのん?」

「連盟の加盟校は111校です……たしか」

「大阪て270から高校あんねんで。コンクールの参加校は80ちょっと。1/3もあらへん。本選も箕面なんちゅう遠いとこでやるさかい、ようよう客席半分いうとこや」

「うそ、もっと入ってたでしょ?」

「観客席いうのは、半分も入ったら一杯に見えるもんやねん。うちのお父ちゃん役者やさかい、そのへんの感覚は、あたしも鋭い」


 美咲先輩のお父さんが役者さんやいうのは初めて聞いた。びっくりしたけど、顔には出さへんようにした。


 それから、美咲先輩は、いろいろ言うたけど、要は、三年なったら演劇部辞めるつもりらしい。

 それで分かった。元々冷めてるんや。盲腸かて、すぐ治るのん分かってて、うちにお鉢回してきたんや。

 馬場先輩に言われた「あこがれ」が稽古場の空気清浄機に吸われて消えてしまいそう。

「今は、目の前の芝居やることだけです!」

 そない言うて、まだ休憩時間やけど、一人で稽古始めた。

「えらい、熱入ってきたやんか!」

「午後の稽古で、化けそうやなあ」

 南風先生も小山内先生も誉めてくれた。一人美咲先輩には見透かされてるような気ぃがした。


――明るさは滅びの徴であろうか、人も家も暗いうちは滅びはせぬ――


 太宰治の名文が頭をよぎった。親が作家やと、いらんこと覚えてしまう。

 三年の先輩らは、気楽そうに道具の用意してる。うちは情熱ありげに一人稽古。

 このままいったら、四月には演劇部は、うち一人でやっていかならあかん。それが怖い。

 あたしは芝居は好きや。せやから、こないだスターの坂東はるかさんに会うてもドキドキウキウキやった。馬場先輩にも「アスカには憧れの輝きがある」言われた。

 せやけど、ドラマやラノベみたいなわけにはいかへん。

 新入生勧誘して、クラブのテンション一人で上げて、秋のコンクールまで持っていかなあかん。


 正直、そこまでのモチベーションはあらへん。


 それにしても、忌々しい美咲先輩。こんな時に言わんでもええやん!

 このナイショ話は、芸文祭が終わったら、頭に「ド」が付く。分かりました?


 アスカのドナイショ物語の始まりですわ……。


※ ドナイショは、標準語では「どうしよう」と言う意味です。 明日香


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る