属性は何を選択すればお嫁さんにしてくれますか?

日溜。

第0話 青い僕らと夏の帰り道

せい‐かい【正解】 

 1 正しく解答すること。正しく解釈すること。また、その解答や解釈。「正解を出す」

 2 結果的によかったと思われること。「傘を持って出たのは正解だった」

 ――『デジタル大辞泉』より



「私のどこが好き?」


 素朴で、難しい問いだ。若し唐突に交際している異性からこのような質問をされたら、どのような答えをするべきだろうか。――下手に返すべきでないのは確実だ。そう、パーフェクトコミュニケーションは目指さなくて良い。及第点を狙っていくのだ。


「どこっていうか、全部」

「あはは。……気持ち悪い」


 弾んだ顔と声色から察するに機嫌は悪くない。悪くないのに、言葉には多大に毒があった。訳が分からない。少し苛立って言う。


「気持ち悪いって、そんなに変な答えを僕はしていないだろう」

「あー、うん。そうじゃなくってさ」

 自分でも持て余した何かを扱うように、ぼんやりとした笑顔になった彼女が続ける。


「『私』ってさ。顔とか体型とか、趣味とか得意科目とか、何だったら今の年齢トシとか色々全部揃ってようやく『私』な訳じゃん。それを好きな君は、私の何かが変わったら好きじゃなくなるのかなって」

「そんなこと――」

「今の『私』はこのままで良くても、十年後、五十年後、百年後。皴々になったり、ヒステリックになったり、分からないけれど」

「――だからそんなことはっ」

「それでも好きって、今言うのは不誠実じゃない? だって、『私』と連続した存在ってだけの何かを無条件で好きだなんて」


 だから努力をしたいの、と告げる彼女の瞳は長く伸びる夕陽を映して煌めいてみえた。

「好きでいる努力をさせるんじゃなくて、好きでいてもらう努力だよ。……好きな人に好まれる私になりたい、っていうのは可笑しくないよね?」

「え、えぇと、うーん」


 この時の僕は、恥ずかしい科白をサラリと言ってのける彼女に赤面した顔を見られるのが恥ずかしくて口籠るばかりであったから、彼女の言葉に何も返せなかったのだ。


 頭でっかちな早瀬花鶏あとりの彼氏の、頭でっかちな小部悟おぶさとるは、この時こう答えるべきだったのかもしれない。


「でもそれは、きっと正しくないよ」


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