01-04.予言

三日目。ヤコポは急用が入ったらしく、また街へと出向かなくてはならないようだ。絶好の機会とばかりに、すぐさま俺は昨日言いそびれたことを切り出した。


「あの都市への連絡手段...直截ちょくさいな言い方をすれば通信系の魔法というものはございますか」

ヤコポは朗らかに頷いた。聞けば彼に用事を知らせたのは連絡係として街に駐在させている弟子からだと言う。それは都合がいいと俺は彼に一つ頼みを持ち掛けた。


「近いうちにあの街にモチヅキが現れます。けれども、それがいつになるかは分かりません。先生が今日街へと赴かれた際にお弟子さんに伝えてほしいのです。モチヅキが来たことを知り次第すぐに私に知らせろ、と」


「どうしてモチヅキがあの街に来ると分かるのでしょう?」

見ると昨日よりも驚いた顔をしたヤコポがいた。こちらの様子をみ取ったのかぐに理由を説明する。


「未来予測...近い内の気候の変動やその年の麦の収穫量といったものではなく、不確定な人間の行動を読むことができるなどにわかには信じられないことです。それこそ...あのモチヅキでさえもこれほどのことはできないでしょう。そもそも奴ができるなば何らかの対抗魔法の開発を...おっと、話がそれました。師よ、やはり貴方様は偉大な魔術師だ。私なんぞ足元にも及ばないことでしょう」


...ヤコポさん、自分のそれはそんな大層なものじゃないし、そしてそれはモチヅキの魔法も同じなんです...偉くもなんともない。

俺はとてもバツの悪そうな顔をしながら弁明する。


「いえ、これはそんなご立派なもんじゃないんですよ...本当に。虫の知らせといいますか...そう、直感が教えてくれる...的なものです」

中身のないことを連発してしまう。ろくに魔法が使えない俺はこれから彼を失望させてしまうことだろう。異能?を示せたのはいいことだが、少しでも彼の中の俺と現実のギャップは埋めておきたい。


「ただ..」

ちらっと右手の甲を見る。


「とにかく、モチヅキが近々来ることは間違いないでしょう。遅くとも49...いや多分21日。三週間以内に、彼は現れる」

急に声を落として、予言者のように宣告する。

其の実それは確定したものではない、けれども”俺が最大で49日以内にモチヅキに会うことのできる何らかの手段が存在する”ということは確定しているのだ。

現れるのはこの国の別の都市や町という可能性はある。だが、転生された地点でまずこの国で間違いはなく、転生地点付近に都市が存在することから、経験上あの街に現れるがい然性が高い。

...というかそうであってもらわなければ困る。結局この国には現れませんでしたー、なんて冗談だけにしてくれよ...まぁ”前にあった”んだけど...

でも、もしそうなったら頭をフルに使ってより戦略的な計画を作らなくてはいかない。緻密なものを作り上げるために膨大な情報収集を行い、何らかの技術を習得する必要もある。考えただけで脳貧血を起こしそうだ。


ヤコポはじっと俺の眼を見た。今度ばかりは俺もまた真面目くさってヤコポの眼を見る。そのまま緊張した状態が続くと嫌なので語を繋ぐ。


「だから彼が現れたら直ぐに私を街まで連れて行ってほしいのです。さすがにモチヅキがいつまでいるかは分かりません。お願いできないでしょうか?」

かえってヤコポの顔が険しくなる。マズイことをいったのだろうか。


「それは..」

「ええ、もちろん魔法の研鑽のためです。同じ人種である彼から何か情報を得られれば私の魔術の飛躍的な発展が見込められるかも、と淡い期待を抱いています」


気持ちを静めるように目を閉じるヤコポ。数秒後乾いた顔をして彼は答える。


「わかりました。モチヅキがあの街に現れた際には直ぐに私か弟子があなたをお連れできるよう準備をしておきます」


「ありがとうございます。私も早く魔法を上達させ一刻でも早くこの国の発展に貢献できるよう、より一層励む所存です」

ヤコポはニッコリと微笑んだ。だがなぜだろう...目が笑っていないように感じるのは気のせいだろうか。

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