第十六話:「推測①」
「早急に被害状況を確認し、俺に知らせろ!」
「「「……承知いたしました!!」」」
焦った俺は、俺の部屋に各研究室のリーダーを集め指示を出していた。
正直、本件の管轄は工場を管理する「盛岡支店」と、「本社設備管理部」だった。
しかし、6号君の開発を行っているこの「技術開発推進部研究開発課」でも、情報集めを行うぐらい不思議ではないだろう。
そう思った俺は、部下に指示を出して情報を集めることにした。
指示を受けた部下が足早に俺の部屋を後にしていく。
「……」
椅子に座った俺は落ち着かず悶々としていた。
あの未来で読んだ、有海の日記の内容がそっくりそのまま年代を変えて起きているからだ。
「確かこの次は……」
俺は、21年前に読んだ有海の日記を思い出そうと必死になっていた。
「……そうだ」
思い出した。期間は忘れたが、突然サイボーグたちが人間を攻めてきたはずだ。
そして、有海の日記では確かこう推測されていた。
「サイボーグを生産したのは、有海から逃げ出した6号君だと思う。か……」
俺は思い出した内容を口にし、自分の心に刻み付けた。
ただ、あの世界で6号君が人間を襲う行為をした原因は、ある本を読んで6号君が人間に恐怖を覚えたからだったはず。その原因を俺は知っており、俺はその内容を有海に伝え、有海は恐怖心を抑制するコードを6号君の本能に追加したはず……。
以上のことから、俺は記憶をたどる限り、今回のような状況が発生することが想像できなかった。
ただ、俺には引っかかることが1つだけあった。
「ミヤビ……」
そう、海人が作り出し、そして昨日「ニンゲン」と叫び、狂ったように俺たちの家から逃げ出したあのミヤビだった。
ミヤビも俺たちが作ったAIが使用されている。そのAIは若干海人が改変したが、根本は変わっていない。なぜなら、本能を司る部分を改変するには、河合エレクトロニクスで極秘にされているパスワードを入力しないと改変できないようにデータが保護されているからだ。
俺は、海人にはそのパスワードを教えていない。
つまり本能に刻み込まれている「人間からの恐怖心を抑制する」コードも変わらずミヤビのAIの中には入っているはずなのだ。
なのに、昨日のミヤビの反応。まるで人間を恐れるような反応をしていた。
「……!」
合点がいった俺は口を閉ざす。まさか……。
今すぐに自宅に帰り海人のサーバーとパソコンのログを確認したい衝動に駆られたが、先ほど部下に指示を出した手前上すぐに自宅には帰れない。
やきもきし落ち着かない俺は、まずは有海へ直通する番号に電話をし、情報交換をすることにした。
その時、俺の机の上にある社用電話が鳴り響いた。
有海に電話をかけたいという逸はやる気持ちを抑えながら、俺は鳴り響くその電話の受話器をとった。
「……もしもし。研究開発課の小林です」
「もしもし。技術開発計画課の小林です。昭人かな?」
なんというタイミングだろう。かかってきた電話の相手は、本社にいる有海だった。
「昭人」
電話口から、有海の澄んだ声が響く。
「6号君生産工場が不正アクセスされたらしい。そのことは知ってるよね?」
「うん。今部下にその情報を集めてもらっている」
俺は有海にそう伝える。
「あのさ……」
有海は一瞬言葉を詰まらせる。
「昭人未来にタイムリープしたっていう話を昔していたよね。その話の中でこの不正アクセスの話が出てたと思うんだけど、今回の件と何か因果関係はあるの?」
有海から確認が来た。なので、俺は有海にこう伝える。
「残念ながら、俺の推測だと大ありだと思う……。思い違いだといいんだけどね……」
「そう……なんだ……」
俺と有海は言葉を詰まらせる。
電話口で沈黙が流れる。その沈黙に耐え切れなくなった有海は口を開く。
「じゃあ、その推測を教えてほしいんだけど……」
その時、俺の部屋のドアが開き、先ほど指示を与えていた研究室のリーダー達が俺の部屋に入ってきた。
「ごめん有海。来客がきた。後でかけ直す」
俺は有海にそう伝えると、一度電話を切った。
◇
「……なるほど。被害はこれだけか」
俺は、研究室のリーダー達の仕事ぶりに目を剥いた。なぜなら、指示をだしてものの10分で、この大規模な会社の全ての被害状況を確認し、その後資料を作成し報告にきたからだ。
「流石だな。仕事が速い」
俺は研究室のリーダー達を褒める。
「当たり前です。このぐらいの仕事が出来ないと、俺たちの仕事ぶりは自分たちの作ったAIに負けてしまう」
そう言い張ったのは長谷川幸一。長谷川ラボのリーダーだ。
「そうです。人類のために開発したAIに人類が食われては、意味がありませんからね。私たちも精進しないと」
そう言ったは飯島藍那あいな。飯島ラボのリーダーた。
「つまり、この内容を纏まとめるとわが社の被害は盛岡にある6号君の生産工場だけか……」
俺は未来でみた状況と全く同じであるこの状況を確認し、焦りを超えて逆に落ち着きを取り戻していた。
「つまり、この研究棟のサーバーには不正アクセスはないと」
「はい、その通りです。盗まれたのは今生産中の6号君の技術全てと、生産が終わっていた6号君50台、そして生産工場のサーバーに保存されていた個人情報だけのようです」
長谷川リーダーはそう俺に報告をした。
研究棟のサーバーには6号君の技術以上の機密情報が保存されている。具体的にいれば今現在開発中の新技術の研究成果が保存されていた。そこが攻撃されていればもっと恐ろしいことになっていただろう。
俺は少し安心した。
しかし、先ほど報告があった被害で、あの世界で起きたことと違・う・点・について俺は聞き逃さなかった。
「個人情報が盗まれた?」
「はい。工場のサーバーに保存されていた個人情報が全て盗まれたようです」
今度は飯島リーダーが答えた。
「その個人情報は、誰の個人情報が含まれていたんだ?」
すると、少し言いにくそうな飯島リーダーはこう答えた。
「工場の従業員と、この会社の係長以上の個人情報が含まれていたようです。……大変申し上げにくいのですが、小林課長。貴方の個人情報も含まれています」
「……!」
予想はしていたが俺は言葉を失った。まさか……。
早く確認したい。逸る気持ちを抑えつつ、俺は目の前の飯島リーダーにそのことを問いた。
「その個人情報は具体的にどのようなことが含まれていたんだ」
「この会社が知っている個人情報全てです。名前、住所、電話番号、家族構成、そしてこの会社での経歴……」
予想以上の情報の多さに、俺は一瞬言葉を失った。
「……そうか。ありがとう。下がっていいぞ」
気落ちした俺は、研究室のリーダー達を下がらせた。
「俺の推測が正しければ……。これは……。まずいな」
そう思った俺は、すぐさま有海に電話をかけ直した。
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