第十五話:「失踪②」

 その後、俺たち3人と1台は逃げてしまったミヤビを探した。近くの公園の草むらや自販機の裏など、小柄なミヤビが入れそうな所は逃さず探したつもりだった。


しかし、18時を回っても見つけることはできなかった。

なので俺は仕方なく、最寄りの交番へ捜索願を出すことにした。


 ネットに乗っていた捜索願のフォーマットに記載をし、俺は交番にその紙を持ち寄った。

何人行っても無駄なので、届出は俺だけで行った。


「すみません。ロボットの捜索願なんですが……」

俺は、椅子に座っている警官に持ち寄った捜索届けを渡した。

「はい」

捜索願を受理しようと警官はこちらに身をよじった後、捜索届けの中身を読みこう言った。

「ん……。ロボットですか。それならば捜索願じゃなくて遺失物捜索願いになるんですよ。こちらの紙に書き直してください。頂いた情報で分かる範囲は先に登録はしておきますがね」

冷たく、事務的な声で警官は俺に必要事項を伝えた。


失念していた。ロボットが人間みたいだから「捜索願」だと思っていたが、まだ日本の法律ではロボットはペットと同等の扱いだった……。

「……わかりました」

警官の態度に若干機嫌が悪くなった俺はそう呟くと、貰ったフォーマットに必要事項を記載し、再度警官に提出をした。


 遺失物捜索届けを提出した俺は、自宅に戻った。

玄関のドアを開け、自宅に入った俺は海人を探す。

「海人~? どこにいる?」

だが、声を張り上げても海人から返事はない。

「え、まさか……?」

海人が一人でミヤビを探しに行ってしまったのかと不安に襲われた俺は、震えた声で海人の名前を呼びつつ探す。


「……いた」


 海人は、暗いガレージの中でパソコンの画面を睨みつけていた。

「海人。を出してきたぞ」

俺はガレージの電気をつけた後、海人へミヤビの捜索願を出してきたことを伝えた。


「……ありがとう」

暗い面持ちで、海人はお礼を言った。

「……海人。何をパソコンで見ているんだ?」

俺は海人に問いかける。ふと画面を覗くと、そこに映し出されているのは自宅付近の地図だった。


「……あ、うん。実はミヤビは携帯回線を使ってこの家にあるサーバーと通信をする機能をもっていてね。12時間に一回は最新の情報に更新しようとするんだ。そろそろ起動して12時間になるから、そのデータ更新を逆探知しようと思ってね。うまくいけば今いる場所が分かるよ」

「そんなことできるのか」

「うん。ちょっと勉強したんだ」


俺は驚いてしまった。原理自体は知っているし、俺もコードを組めばそういう機能を作れると思うが、こいつはこの年でそれを独学で組み終えているとは……。

「……来た」

10分ほど経った後、海人は俺にそう報告する。

「……え?」

海人が驚きの声を上げる。マウスのホイールをぐりぐりとやり、表示されている地図の縮尺を変えている。

「何でこんなところに……?」

位置情報を発見したのか、海人は驚愕の声を上げる。

「どれどれ?」

俺はパソコンに写し出された地図を確認する。

「仙台と山形の県境……かな? 面白山高原」

「え?」

海人の声を聞き俺も驚く。なぜなら、ここから面白山高原まで直線距離で40kmはあるからだ。

「12時間で40kmも移動するんだ……」

地図の縮尺を確認しながら、海人も驚きを隠せない。

「……あのロボットの型式だと、電池はフル充電でも3日ぐらいしか持たないはずだよな。知識レベル的にも自分で充電しようとはしないはずだし……。よし、次の休み、7日後にミヤビを回収しに行こうか」

ハードを提供したのは俺だったので、俺はあのロボットの仕様をよく分かっていた。

「うん。動けないほど電池を消耗した後でも、自動更新を行うくらいの電池は残すようにプログラムしておいたから、1日そこを動かなかったらミヤビが電池を切らして倒れているところだね!」

海人もそう結論付けた。


「じゃあ、次の休みはミヤビ救出だな……」

気だるい気持ちを息子のためと押さえつけつつ、俺は自分のスマートフォンのスケジューラにそう記入した。

「ボクの自由研究のためだから、よろしくね!」

居場所が分かって安心したのか、一転笑顔になった海人は俺へそう伝えた。


しかし、海人の笑顔を見ても俺の気持ちは晴れなかった。

『逃げる前のミヤビのあの態度。そして逃げたあの方向。なんか嫌な予感がする……』





 翌日、河合エレクトロニクスへ出勤した俺は、自分の椅子へ腰掛ける。

俺は出世し、研究棟の管理課長となっていた。

ちなみに有海は本社の技術開発推進部で、俺と同じ管理課長の役職についている。


俺は椅子に腰掛けた後、部屋の外が騒がしいことに気づく。何事かと聞き耳を立てていると、あわただしい様子の部下が、小走りで俺の部屋に入ってきた。

「小林課長!! 6号君を生産する工場が不正アクセスを受けたようです! 生産を終えていた50台ほどのロボットが逃げ出したとのこと!」

「……え?」

焦る部下から報告を聞き、俺の脳裏には未来で見た有海の日記の内容がよぎった。

「マジかよ……」

俺の背中には悪寒が走った。

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