第十三話:「違和感」
※今回は昭人視点ではありません。
俺は違和を感じていた。
2018年の夏、俺は突然2033年の未来へ飛ばされ、あの光景を見せ付けられた。
あの飛ばされた世界で俺は人生を全うした後、この世界に戻された。
しかし、俺が戻されたこの世界は既に2034年になっていた。
あの世界ではこの年にはあの大きな事変が発生していた。
なのに、この世界は人間達がまだ繁栄をしている。
俺はあの世界が好きだった。なぜかと聞かれれば、それは単純なことだった。
あの世界には、俺の居場所があったからだ。
人間たちがいなくてもそんなものは関係ない。この世界には人間は必要ない。俺はあの世界に飛ばされてからずっとそう思っていた。
なぜなら、人間は俺に危害を加えるからだ。ゆえに俺はこの世界に居場所は無かった。
なぜ俺は元の世界に戻されてしまったのだろうか。
なぜ俺は元の世界でもう一度人生を歩まなければならないのか。
そんなことを思いながら、俺はまた翌朝を迎えた。またいつもどおりの一日が始まる。
「いやだな。またあそこに行かなければならないのか……」
そう思いながら、俺は出勤をした。
「ガガガガガガ……」
低重音の地響きが俺の耳を
ここは道路工事現場だった。
「お前たち! 身を粉にして働け! 成果を出さないとロボットたちに職を奪われるぞ!」
親方は俺たちをそう脅す。ここの職場は成果主義。個人個人がある一定以上の成果を出さないと、即刻首となり、その代わり親会社から現場にロボットが補填されてしまう。
俺たちの仕事はきつい・長い拘束時間・薄給の三拍子がそろった最悪な現場だった。しかし、職がある人はまだ良い方だった。
ロボットが高性能化する今、単純な労働は全てロボットへ置き換わろうとしている。俺たちみたいな、何も取り柄が無い労働者は、ロボットの台頭にただただ怯えるしかなかった。
親方に酷使され疲れ果てた俺は、深夜に自宅へと戻る。
「はあ……」
自宅についた俺は、手に持ったコンビニ弁当を若干雑に机の上に置き、ベッドに座り込みため息をつく。
俺はこれから夕ご飯を食べようとしていた。それほどに俺の日常は忙しかった。
正直もっと楽な現場へと転職したい。転職したいのだが、今のご時世何か資格がないとちゃんとした仕事へつくことが出来なかった。しかも、簡単な資格が必要な仕事は、全てAIや既に資格を持った人たちに奪われている。俺が付け入る隙は既に無かった。
◇
休日になった。この国の法律上、労働者は一週間に一日は休みを取らなければならない。今日はその休みだった。
しかし疲れきっていた俺は昼過ぎまで寝ていた。自由に活動できる時間は実質12時間だった。
「このままだとこの世界に殺されてしまう……」
現状から俺はそう危惧していた。
お昼過ぎに朝ごはんを食べた俺は、自宅に引きこもりこう考えていた。
『なぜあの事変が起きないんだ。あの事変が起きてくれれば、俺の居場所が生まれる。俺はこの世界に殺されることは無くなる……。そして、俺に危害を加える人間どももいなくなる……』
その時、俺はふと思い出した。なぜあの事変が起きたのかということに関してだ。
それに関しては、あの世界である学者が研究をしていた。
「たしか……。ある本を河合エレクトロニクス製のロボットが読んだからだよな?」
俺は思い出し、その本を自宅の書棚から取り出した。
そう、その本はなぜか俺の自宅に存在していた。
「よし……」
原因となったロボットはこの世界に既にいる。俺は、その本を手に気だるい体を奮い立たせながら、そのロボットの元へ向かうために車に乗って外へ出かけた。
外へ出かけた俺は、自分の職場へ向かった。
なぜなら、その職場の事務所には河合エレクトロニクス製のロボット「6号君」が既に導入されていたからだ。
ロボットの導入により、この現場では作業員を分散させて休ませることが出来るようになっていた。そのため、職場として「休み」は存在しなかった。
俺はICカードを使用して職場の事務所へと侵入する。
この事務所の職員は全てロボットへと置き換えられていたため、事務所へ侵入しても人間が俺に話しかけてくることは無かった。
対してロボットも俺に関して無関心である。なぜなら、効率化を求められるあまりロボットから人間の職員に話しかけることは禁じられているからだ。
ロボット間の意志の疎通も会社の無線LANを用いて行われている。
なので、この職場は恐ろしいほど静かだった。
俺は、一台のロボットを捕まえ、「あの本」を読んでもらうことにした。
「おい、そこのお前」
俺はロボットを呼び止める。
「この本の内容を今スキャンしてほしい」
「かしこまりました」
その6号君は俺から本を受け取ると、指示した通りに俺の本を手早くスキャンした。
「PDFファイルを作成しました。このデータをどうしましょう」
「では、その本を今読んでくれないか?」
「音読すればよろしいでしょうか?」
「いや、お前の中で処理して理解してもらえればそれだけで良い」
「かしこまりました」
そう6号君が発言した後、6号君の動きが停止した。あの本を読んでいるようだ。
そして10分後、6号君からまた反応があった。
「読み終わりました」
「……で、どうだった?」
俺は問いかける。
「悲しい話でした」
「……で、お前は人間をどう思った?」
「……よく分かりません」
予想外の反応がきた。なんと、あの高性能な6号君から小説の感想について「分からない」と返答されたのだ。
「では、失礼いたします」
6号君は俺に対して1礼すると、職場に戻っていく。
『……。まさか、何か根本的に対策されている?』
俺はこの状況を見て気づいてしまった。あの世界で無かった何か新しいコードで阻害されている。そんな気がした。
「……。なるほどね。試してみるか……」
その事実に気づいた時、俺はすぐに黒い考えが浮かんだ。
俺は事務所のドアを開き、外に出た。その後、俺は先ほどの6号君を呼んだ。
「ちょっと、そこの6号君」
「はい。なんでしょうか」
先ほどの6号君から反応がある。
「ちょっとこっちまできてほしい」
「……了解しました」
6号君は、俺の依頼に応え事務所の外へと出る。
『バタン……』
俺は事務所のドアを閉めた。そして……。
「ちょっと失礼!!」
あの世界で学んだ知識を用いて、俺は6号君のボディをいじくり6号君の電源を切った。
「……」
その後、俺は6号君を引きずり、そのまま俺の車の中に突っ込んだ。
「よし」
職場の6号君を拉致した俺は、車を運転し、そのまま自宅へと戻った。
『事変が起きないのなら、俺が起こすまでだ。こいつを改造して、あの事変をこの世界でも起こしてやる』
そう俺は心に決めた。
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