第十話:「説得②」

 俺達は自宅に到着した。今二人で過ごしているアパートは、リビング1室、寝室1室、トイレ、お風呂、キッチン有の2人では十分すぎる広さの家だ。こんな家に住めるのも、有海が研究リーダーをやっているおかげだろう。

「さて昭人! 今日は何作る?」

部屋着へと着替え終わった有海がそう問いかけてくる。

「ん~……。じゃあ、野菜多めの料理がいいかな……?」

「じゃあ、マーボーなすね! なすを買いすぎて余ってるんだよ~」

「おっけー。じゃあ切るのは俺やるよ」

二人でキッチンに移動し、料理を作り始める。有海は仕事で頑張ってるから、このぐらいは働かないとね。

「お、さすが昭人、切るの速い! さすが『主夫』!」

「いやいや、その称号は有海にあげるよ」

「私昭人より料理下手だし……。 うん、昭人からその称号奪えるように頑張らなければ!」

「いや~。この称号かなり不本意だから、今すぐにでもあげるよ」

「ふふ、まだ無理かな~」

そう、俺は学生時代にキャンプをするクラブにも入っていたため、料理はそこそこできた。その料理の腕をある時有海の前で見せつけたところ、有海から「主夫」と呼ばれるようになってしまい……。正直この恥ずかしい称号は是非とも返納したい。

「じゃあ、『シェフ』って呼んだほうがいいかな? そっちのほうがかっこいいよね!」

「うん、確かにその呼び名の方がかっこいいかも……。ん。有海何笑いこらえてるの。からかってるでしょ!」

「からかってないよ。似合ってるなって思って」

「本当かなぁ?」

「本当本当」

ぐだぐだだった。



 完成した料理が食卓に並べられる。今日のメニューは「マーボーナス」「なす入り味噌汁」「なすのおひたし」「やきなす」「ごはん」……。

「有海さん、作ってて思ってたんだけど、なす多すぎやしませんかい?」

「だって! 特売で安かったんだもん! 買いすぎちゃったんだよね」

「俺の体の色が紫色になったら有海のせいだな!」

「大丈夫大丈夫! どっちかというと身の色になると思うから、紫じゃなくて白になると思うよ!」

「そっか、白なら目立たないね……。ってそういうことじゃないんだよな~?」

「え、違うの?」

やはり有海は有海だった。


 テレビを見ながら二人で夕ご飯を食べる。テレビの内容はお笑い番組だ。最近テレビではお笑い番組がまた増えてきた気がする。東京オリンピックが終わり暫くたち、また景気が悪くなってきたのだろうか……。

そんなことを思いつつ、俺は有海にAIのコードについて相談を持ち掛ける。


「あの……。AIのコードのことなんだけどさ」

「ん? その話? その話は今日まとまったんじゃなかったっけ?」

「いや、あの場ではあまり言えないこともあってさ」

俺は続ける。

「俺、前『未来を見てきた』って有海に言っただろ?」

「ん。そんなこと言ってたっけ?」

「4年半前かな? 俺と有海がファミレスで話した日」

「あー! 昭人が私に泣きついてきた日か! あれ、可愛かったなぁ」

『もう一回みたいな!』と顔に書いてありそうな有海が、俺の横に近づき俺を間近で見つめ始めた。

そんな有海を見て、俺は無意識に有海にキスをした。真っ赤になる有海。

「ちょっと! 突然なによ~」

「いや、『キスしてほしい』って顔に書いてあったからさ」

「いやまあ、少しはそう思ってたかもだけど……」

照れる有海が可愛い。

「続けるぞ!」

俺は煩悩を振り払い話を続ける。

「有海はその話を『俺の夢』だと思っていたかもしれないけど、俺は本当に未来に飛ばされていたんだ」

疑うような顔で俺を見つめる有海。俺は話を続ける。

「で、その未来は有海の作ったロボットが作った人間みたいな動物、『サイボーグ』が俺達人類の代わりに日本を支配していた。なぜそうなったのかといえば……」

「私が昭人を救うために、AIに解析を頼んだんだっけ? そのためにAIが急激に進歩したって確か言ってたよね。そのAIが暴走してサイボーグを作ったと」

なんと、覚えていた。流石有海だった。

「そう。それでAIが暴走した原因なんだけど……。有海覚えてる?」

「ん……。なんだっけ」

「ある『本』のせいなんだ。その『本』をAIが読んだせいで、AIが暴走しちゃったんだ」

俺は「ちょっと待っててね」と有海に告げ、俺の部屋の書庫の奥からその『本』を持ち出した。


本を持ち有海のところへ向かう途中、俺はあることに気づいてしまった。

『あれ、もしかしてこのまま有海に『本』を見せると、また未来へタイムリープしてしまうのでは……』

そう思った俺だったが、有海に本のことを話してしまった以上もう引き返せない。まあ、タイムリープしても未来で死ねば俺はまた現代へ戻ってこれるだろう。あと、『すでに未来に行って、全てを理解している俺』ならばまた未来に飛ばされることもないだろう……。そう楽観視した俺は有海に本を見せることにした。


「お待たせ」

2分もかからずリビングに戻った俺は、まずテレビの電源を消した。

その後、俺は有海にあることを警告する。

「4年前、俺が未来にタイムリープする直前に、俺は今俺の背中に隠してある『本』を有海に渡したんだ。その後俺は植物人間になったらしい。だから、今この『本』を有海に見せると俺は倒れてしまうかもしれない……。だけど、『未来』で俺が死ねば現代に戻れるから安心してほしい。 あと、『未来での知識』をすでに持っている俺は、有海にこの本を見せても倒れないかもしれないからね……」

俺は続ける。

「とりあえず、有海にはこの『本』の中身を読んでほしい。そして、なぜAIが暴走したのかを理解してほしいんだ。それが俺と有海がこの先、生き残るための方法なんだよ」

「タイムリープする原因がその『本』っていうのはあまり信じられないけど……。分かった! とりあえずその『本』を読ませて! 話はそれからかな?」

「わかった。渡した後に俺の身に何かあったら、ごめんな」

そう俺は有海に伝え、『本』を有海に渡した。





渡した直後、恐ろしさで目をつむる俺。





しかし……。いくら待っても未来にタイムリープすることはなかった。



「なんだ、何も起きないじゃない!」

そう安堵する有海。

「どれどれ……」

食事中にも関わらず、本を開く有海。

「ふむふむ。ロボットを使った戦争の話だね! ちょっと今日中に読んでみるよ!」

「ボリューム的に今日中に読破は厳しいような気がするけど……。本当に今日中に読めるのか?」

「うん。私『速読』が得意だったからね。このぐらい3時間あれば読めるよ!」

初めて聞く有海の得意技に俺は驚愕した。

「そんな特技もっていたのか。全然知らなかったぞ」

「最近は『論文』ぐらいしか読んでなかったからね~。昭人の前では披露してなかったかもね」

得意げな有海。ちょっと可愛い。

「じゃあ、無理せず読んでほしい。明日また話し合いができたらいいな」

「了解! がんばって読むよ!」


テレビの電源を入れる俺。テレビからは気の抜けたお笑い番組が放送されていた。

そして、俺達は食事に戻った。


『これで、有海が「AIの制御の限界」について理解してくれるといいんだが……』

俺は明日の話合いに向けて、有海を説得しきれるかどうか内心不安になっていた。

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