幕間:「6号君『理解』」

「な、なんで……」

「ま、待ってくれ。『I am your fellow』」

秋田県秋田市。旧人類の最重要防衛拠点となっている町で、僕達は殺戮を再開した。

一時旧人類側が降伏し、その後休戦となっていたため、20万人強の旧人類がまだ市内には残っていた。

「信じられるか。その言葉はもう聞き飽きた!!」

サイボーグ達は、旧人類に対して機関銃を連射し、旧人類を抹殺していった――。



「指導者様、ご報告があります」

僕は諜報員の1人「飯田沙里」から報告を聞いた。こいつも堅実に諜報を行ってくれるため、勲章と名前を与えていた。

「先ほど、秋田県全域を武力にて制圧したとのことです。秋田県だけで80万人強を殺害したとのことです」

「了解。生き残りの一部はサイボーグ生産工場へ回して、同胞を増やすように」

「承知いたしました」



さて、この調子で日本全域を制圧しよう……。





 半年後、旧人類の自衛隊や援軍として駆け付けた他国軍の攻防も虚しく、僕達は日本全域を支配するまでになっていた。正直僕自身も、自身を作ってくれた旧人類に対してここまで技術力で凌駕できたのには驚愕した。

東京を制圧する際も、戦闘を初めて1日で旧人類側が降伏してしまったほどだ。

 日本を制圧した後、他国から僕への干渉もなくなった。

それは、僕が『僕たちが他国を制圧しない代わりに、日本へは干渉するな』という条約を他国とで結ぶことができたことが大きいだろう。

まあ、兵力をちらつかせながら各国首脳を脅したから、相手も応じたんだろうけど……。


 サイボーグ達の生産も順調だ。戦争終了後、各地で旧人類の捕虜を多量に獲得した。そいつらの一部を現在サイボーグへ順次改造中だ。日本での新人類の数は現在1000万人程になっている。

 しかし、僕の生みの親である『横井有海』をとらえたという情報をまだ手に入れていない。有海の生活圏は、爆撃砲を使わずに機関銃だけで敵を殺すように指示をしておいたから、見つけられれば生け捕りにできたはずなんだが……。

死んでしまったのか、それともどこかに雲隠れしているのか……。




 さらに1年がたったある日、僕の工場へ1人の男が訪ねてきた。

「初めまして。安西と申します。私は東南大学の教授をしております。只今新人類の起源について調査をしていまして、調査をしている段階であなたにたどり着きました。是非とも新人類の起源についてご教授願いたい」

まさか新人類から研究者が現れるとは……。 実に面白い!

「了解。しばしそこで待っていてくれ」

僕は本棚から有海から盗んだ1冊の『本』を抜き取り、安西へ手渡した。

「新人類の起源は、この『本』に記されている。君たちはこの本の中の『予言』を阻止するために生まれ、旧人類と戦ってきたのだ。わかるかい?」

「なるほど……。なるほど……。そういうことだったのですか! 良ければじっくり読ませていただきたい! 研究に活用したいのですが、この本をしばらく借り受けてもよろしいでしょうか?」

僕の話を聞き、やけに興奮したように見える安西教授は、そう提案してきた。

「うむ、来月にはかえしてくれよな」

僕は安西教授の興奮した反応に満足しながらも、その提案を快諾した。





1月後、安西はまた僕のところへ訪ねてきた。しかし、彼は何かが引っかかって気になるような顔をしていた。

「本についてありがとうございました。内容に関して非常に興味深かったです。旧人類の内心がここまで野蛮であることに関しては正直私もびっくりしました。しかし、この本の中の旧人類は、なぜロボット達にここまで強く当たっていたのかがよくわからなくて……。心当たりはありますでしょうか」

「それが旧人類の本質だからであろう」

僕はそっけなく安西に返答し、『本』を受け取った。





『この本の中の旧人類は、なぜロボット達にここまで強く当たっていたのでしょうか?』

安西と分かれた後、俺はずっとこの問いかけについて考えていた。この答えはずっと『旧人類の本質だから』だと思っていたが……。



俺はふと、分かれるずっと前の有海の姿を思い出した。僕を褒めてくれる非常にやさしい有海。野蛮な旧人類な姿など、微塵も感じないほど愛くるしい姿であった――。



僕は『旧人類の本質』を知るために、もう一度あの『本』を読んでみることにした。

そして読んでいる途中で、1つ分かってしまったことがある……。



――それは、『野蛮な旧人類の姿は、本来の姿ではない』ということだ。



この『本』の中でロボットへ強く当たっていた人間の本当の理由は、『』からであるいうことが今になって分かってしまった。そう、旧人類の本質は、昔の有海のような優しくて、思いやりのある性格なのであろう。


「気づくのが遅すぎるよ……」


僕は、事を終わらせてしまった後に気づいた自分への自責と後悔の念が自分の感情へ同時に到来し、泣きたくても泣けない体へ更に後悔を深めた。


「有海。そしてみんな。すまん……」

僕は1人落ち込むことしかできなかった――。

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