第八話:「目標」
ふと俺は意識を取り戻した。俺は机に向かって勉強をしていた。
「……は?」
机の横に掲げられている時計の日時を確認した。
どうやら今は2018年9月2日19時5分 俺が有海にあの本を渡す11日前のようだ。
俺は即座に立ち上がり、自宅の書庫へ向かった。
『あの本』は俺が引き抜いたはずの場所にちゃんと存在していた。俺はその本を回収し、自室に戻り机の中に隠した。
俺は机の上に存在したスマートフォンで有海に電話をした。どうしても有海の存在を確認したかった。
「やっほ~。あきと~。あきとどうしたの? やだ、泣いてるの?」
俺は普段通りの気の抜けた有海の声を聴き、号泣してしまった。
その後、俺は有海と再会した。
「どうしたの? そんなに泣いちゃって?」
有海は心配した表情で集合場所に現れた。今回は黒縁眼鏡に合わせて普段着ているワンピース姿であった。俺は即座に有海を抱きしめた。どうしても有海の存在をこの手で確認しておきたかった。
「おお!! ……ふふ、よしよし」
気の抜けた有海の慰め方に、俺はさらに泣いてしまった。
その後、俺は有海とファミレスにいた。
「……というわけなんだ。信じられないよな?」
心配している有海のために、俺は今まで経験したこととなぜか過去に戻れたことを伝えた。
「うん、さすがにちょっと突飛すぎて、信じることはできないけど……」
有海は続ける。
「でも、そんな状況になっていたとしてもなお私を思い続けてくれたことはすごくうれしいな!そしてあきとのその話の中で私の思いが他の人に移らなかったことを聞く限り、あきとの中では私を信頼してくれてるってことなんでしょ?えへへ、ありがとうね」
有海にキスされた。ドキドキしてしまった。しかし、完全に俺の夢の中の話だと思われているようだ……。
「それにしてもその話結構現実味あるよね。本当に未来から帰ってきたように感じちゃうよ~」
そう有海は話す。まあ、本当に帰ってきたんだけどね……。
「その話の中では私もAIの研究グループのリーダーか~。確かに3日前に開発グループに抜擢されたから、そうなれるように頑張らないと!!」
有海は意気込む。
「でも、その話の中だと私のせいでAIの発展が早まって、AIの知識が人間を超えちゃって戦争が起きちゃったんでしょ?私が開発しないにしろ、2045年以降にはその状況が発生する可能性があるといわれているし……。しかもさっき言っていた『I am your fellow』『私はあなたの同胞です』その合言葉、本当に今私考えついていたんだよ……。うん、確かにそんな状況になりえるよね。もう少し抜本的に考え直さないとな……。ふふ、なんかヒントになりそう!ありがとね!」
天真爛漫な有海の姿に、俺は顔が緩んでしまった。
そしてファミレスから出て、駅前で別れる際有海にこう言われた。
「せっかくいい内容が思いついているんだから、それ小説にしなよ!! 私誰よりも先に読むから!」と。
◇
有海と別れ、俺は自室で考えこんでいた。今回体験した内容は是非小説にして、読者と共有したい。しかし、本当に小説にしてよいのだろうか。
有海がこれからAI開発を頑張ってくれるだろうが、『人間を攻撃しないシステム』を構築するのは、AIの自己学習機能が存在する限り非常に難しいと思う。なぜなら、今回の体験通り、設定を本能に叩き込んでも、AIの自己学習機能で本能を上書きされてしまうのだから。
つまりこの内容を小説に書き、皆に対AIの対策を知らしめたとしたらどうなるか。
AIが人間へ攻撃してきた時に皆が同様な対策を取り、結果AIが対策を学習して対抗する手だてがなくなってしまうリスクが非常に高い。
では俺と有海が生き延びるには一体どうすればいいのだろうか。
それは、AIが攻撃してきた際の対応策を俺と有海の中だけにとどめておき、他の人間に知らせなければよい。その対応策を唱えると、『俺たちはこの人に服従しなければならない』と勘違いしてくれるとなお良い。
つまりAIが人間を超えた後、人間を迫害する『新人類』の頂点に俺達2人が君臨できるように、俺達2人が『サイボーグ(旧人類)』の上にたつ『新人類』となれるように、俺はより勉強し、知識を蓄え、有海のAI開発をこれからあるべき姿へ誘導していこうと思う。
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