エピローグ(一)
戦後処理は難航し、帰国してからも纏まらなかった。
それは王太子が東部への主張と権利を、ほとんど放棄したからだ。
……なにを考えてんだろう、あの王子様は!?
結果、
まあ同盟国の南部とゴートにしたら良い流れか。参戦と奮闘への見返りに、適当な領地を分け与えられたし。
もちろん前世史におけるオランダ――今生ではポンピオヌス君
しかし、そこから戦勝国会議は奇妙に踊り始めた。……どうしてか。
「
「い、いかに我が盾の兄弟とはいえ、あんまりな御言葉!
それに、この場に居るのは
また連邦主席の座は、類まれなる栄誉に御座いましょう!」
……ポンピオヌス君
いくら国号が馴染みのない時代だからって、暢気すぎる。こうなったら僕が『キミンチダ』と付けちゃうか?
それに連邦制とか! 誰がポンピオヌス君に知恵を――
もしやルーバン!? あの悪知恵に長けた
「ルーバンを! ここへ
「へ、陛下!? いくら我が兄といえど、そこまで大それたことは!? それに兄では連邦などという名an――言葉を持ち出せぬでしょう!」
思わずといった風に儀仗兵のノシノルが口を挟んできた。
……そういわれれてみたら、そんな気もする。
厳しい目で
しかし、そうなると誰がポンピオヌス君に知恵を――
「誰の発案であろうと、よいではありませんか、北王陛下」
……すぐに答え合わせは済まされた。皮肉そうに笑う東部の全権代理人――
なるほど。これは王太子の
「ポンピオヌス殿?」
「……思っていたより……その……殿下は心得た御方かと?」
いつのまにかポンピオヌス君ってば、王太子に篭絡されちゃってるし!?
北部と東部の大半を統治する以上、
つまり、望めば全ガリアの平定だって夢じゃない……南部やゴートとは同盟継続な以上、すでに三分の二が勢力下だし。
踏まえると王太子の戦利放棄は奇妙でもあり、だからこそ窺って考えられなくもなかった。
もしかしたら戦争の後を――いま現時点の状況を睨んで?
カタラウヌムで勝ちを譲ってきたというか――第三者視点では仲良く分けあった西部が和合を求めるのなら、北王として応じぬ訳にはいかなかった。
……それで内患を抱え込むことになろうとも。
しかし、だからといって連邦制は拙かった。
それでは
この時代の連邦制は古代ギリシアのだろうから、現代人の考える
そして面倒臭いだけと思われるかもしれないが――
ほとんど西ローマに匹敵の巨大な勢力圏となる。
それが非常に良くなかった。
西ローマ帝国は、ほぼ限界点だ。国として長寿を持ち得る版図の広さとして。
なぜなら三百年以上に渡り広大な版図を維持できた例は、オスマン帝国ぐらいしかない。
不思議なことに東西ローマより大きくなると、三百年以内に衰退してしまう。
これは技術的限界が理由と説かれるが……どのみち科学技術が進めば国土の広さは重視されなくなる。
ようするに世界征服など、発想の段階で失敗確定な大失策だ。
「ですが、陛下? 我らには力が必要です。それも揺るぎない兵力が」
頭の痛いことをライン南岸総督のウシュリバンが思い出させてくれた。
東部も統治となれば、当然に中ラインもセットだ。
つまり、上ライン――アルプス山中を除く全てのライン川を防衛せねばならない。……それでウシュリバンも代官から総督へ格上げした訳だし。
もしかして僕は、体よく雑事を押し付けられてない? 王太子から!?
「北王陛下! ゲルマン共の侵攻は、我ら南部の民とて無関係ではいられぬこと! 大義の為とあれば、喜んで旗下へと加わりましょうぞ!」
違うよ、南王キャストー陛下!
そこは「ライン戦線の協力金へ拠出は仕方がないとして、我らの自主独立までは――」と反対してくれなくちゃ!
そして背後も見て! 腹心の
満更でもない顔してんな!? どうして!? 自分の王が、他の王へ頭を垂れようとしてんだぞ!? 止めるべきだろ!?
あとポンピオヌス君とベクルギ名代の
この会談は変だよ! どうして誰も彼もが、僕に連邦盟主を押し付けようと!?
というか連合もしくは同盟で良いじゃない! 自主独立は保ちつつ、外患には一致団結で!
そこでルーと偶然に目が合い、その本心が理解できてしまった。なるほど。
おそらく君命で会議へ出席し、僕を連邦盟主へと推してはいるものの……内心では業腹なんだろう。
よく分かる。というか、この場で心情が分かる唯一の人物だ。
けれど悔しいので満面の笑みを返しておく。
さすがに嫌な気分となったらしい。久々に気分がスッとする!
こんな子供じみた振る舞いをしてしまうのも、おそらく僕も鬱屈が貯まっていたからだろう。
なぜなら帰国したら――
父上に諭された。
母上に悲しまれた。
義母さんに膨れられた。
義兄さんに咎められた。
義姉さんに怒られた。
エステルに説教された。
ネヴァンに黙り込まれた。
ポンドールに泣かれた。
グリムさんに我慢された。
イフィに糺された。
リネットに呆れられた。
と、他にも他にもで、ほとんど身内の全員から総非難された。どうして!? 僕は凱旋将軍だぞ!?
まあシスモンドに「だから駄目だと申し上げたじゃねえですか」と言われなくても分かってはいる。
生還は偶然に過ぎない。もう完全に幸運の賜物だ。
やはり結果オーライで済ませたら良くないし、近い関係だからこそ皆も怒り、非公式かつ私的には嘆いてくれた。……僕を喪ってしまうかと。
しかし、あれはベストでなくともベターな選択だった。
そう確信しているからこそ僕は謝らなかったし、それもそれで周りの皆も理解してくれてる……と思う。
ただ男の身内は、ハッキリ言う人が殆どだったしサッパリしてたけど――
女性の大半は、もう決して離さないとばかりに手を強く握りながら、チクリチクリと御小言を繰り返すので、如何ともしがたい。
ようするに彼女達は怖かったと訴えたいのだから、黙って聞くのが
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