転章

 誰のせいでもない。

 仮に超人的な直感で、あの少年を保護するよう頼むなどしていれば、おそらく彼は死なずに済んだ。

 でも、それは物事の上っ面をなぞるというか、対症療法でしかないというか……つまりは本質的じゃない。

 むしろ問題から目を背けてすらいる。


 また父上や母上だって、この時代の施政者なりに心を砕いて対応されていた。

 施しは十分ではないかもしれない。食べ物だけでは駄目でもあるだろう。

 でも、この時代なりの精一杯だ。


 そもそも人類は飢えや寒さと戦い続けたものの、未だ一度も勝ってはいない。

 ただ負けてないから、なんとかゲームが続いているだけだ。

 ……最初から勝ち目のない空しい戦いの可能性すらある。


 そして飢えと寒さと戦うよりは、まだ世界征服の方が簡単だろう。

 目についた強そうな奴を片っ端から倒していけば、いつかは達成もできる。


 しかし、それが諦めるに足る理由となるだろうか?


 相手が強大で勝てなかろうと、決して理想に届かない定めであろうと……目指す価値はある。

 そして幸か不幸か僕には、その為の知識もあった。


 この世界の良さ尊重して、今まで通り静かに大人しくか――


 何もかもを壊ししまうリスクを負ってでも、もう少し良い世界を目指すか。


 選択できる分だけ、僕は恵まれてすらいる。

 ……まあ、実質的にはないも同然ではあっても。


 あの杖をついていた少年を――次に僕の身近で凍え死ぬ、あるいは飢え死にする子供を見殺しはできそうにない。

 やるだけやってからなら、助けられなかったと許しも乞える。

 でも、それは全身全霊を懸けてから。


 子供が飢えたり凍えたりで死なずに済む世界を目指してからだろう!

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