異世界食糧事情
とかく異世界といったら絶望的な食糧事情に思われがちだけど……それは正しいともいえるし、大きな勘違いともいえる。
よくあるパターンでは『美味しい料理が全くない』となるけど、語弊を恐れないのであれば――
誇張し過ぎだ!
なにか例を示すのであれば、判りやすい料理で鰻の蒲焼がある。あれは現代日本にも負けないレベルだった。
え? 中世に? それもヨーロッパに鰻の蒲焼があるはずない?
……日本人特有の傲慢だ。美食への執念を燃やしたのは、当然に日本人だけではない。
そもそも中世どころか、古代の頃から鰻の蒲焼は存在していた。
ヨーロッパでも鰻は獲れるし、醤油によく似た調味料に魚醤――ガルムがあり、甘味料も蜂蜜がある。
あとは甘辛い味付けを閃くだけで、もちろん古代ローマ人は成功していた。
つまり鰻の蒲焼を美味しいと――美食のうち一つと数えるのであれば、この世界も似たような水準といえる。
他にも『新鮮なレバーを軽くソテーして塩コショウ』なんて料理を想像してみればいい。それだけで一流レストランにも匹敵するだろう。
ただし、この理屈は海産物やジビエの類に限る。
残念ながら畜産系は劣っていた。それも非常に。
僕のような貧しい食生活だった人間にすら、容易く判別できるほどだ。
まず、食肉として専門的に生産しているのは豚と鶏程度で、それすら味よりも生産効率を重視している。
……食料生産力が低すぎるからだ。それも生死を左右するほど。
さらに冷却技術がない。
動物というのは死亡と同時に腐り始める――微生物が活性化するので、それらを死滅させるべく冷やす必要があった。
これは速く冷やせれたら冷やせれるほど、温度も低くできればできるほど望ましく……そうできなかった場合、非常に臭う肉となってしまう。
現代日本でも超特価品の安い肉が、驚くほど臭かったことはないだろうか?
あれらは突然死した畜産などがほとんどで、屠殺直後に冷凍室と比べたら、どうしても微生物の繁殖を抑えきれない。結果として凄く臭う。
しかし、文明が古代か中世レベルだと、万全の態勢ですら肉は臭くなる。冷却方法が冷水ぐらいしかないからだ。
そして慣れられるかどうかで大きく変わるけれど――
メインは羊だったりする。
肉といったら羊! 次が豚か鶏。それから鹿や野鳥のジビエとなる。
ちなみに牛も食べなくもないけれど、食用目的で飼育していないので酷い……らしい。
これが伝聞なのは、転生してから一度も食べたことがないからだ。母上とレトか嫌がるので、僕の食卓には上がらない。
つまり――
穀物飼育もしていない
と断定できる。
実のところ牛も羊と同様に肉は臭い。それが自然だ。
これは反芻する動物特有の特徴で、どうしょうも……なくもなかったりする。
三か月ほどエサを穀物だけにすると、臭いを劇的に抑えることが可能だ。反芻の結果として肉が臭くなってる訳だし。
逆にいうと、この世界の牛は「羊肉と同じくらいに癖が強く、比較にならないほど固い」となる。
だから死んでしまった農耕牛を食べるぐらいなのだろう。
……穀物飼育の羊や子牛を始めてしまおうか? すこし美食に偏り過ぎかな?
最後に冷蔵の技術もないのが止めだろう。
生肉のままにはしておけないので、屠殺したその日のうちに全て処理する必要があった。
多少は違っていても、生肉を料理したものは美味しい。……これは羊の癖に慣れられたのも大きかった。
それにハムやソーセージも美味しい部類といえる。
半分くらいは保存を最重視で、かなり刺激的な味だけど……残る半分は非常に美味しい。
端肉で作る干し肉などだって、あまり僕は食べないけれど
しかし――
何としてでも無駄なく使い切るつもりな血や脂、雑多な内臓肉は……辛い。僕には厳しすぎる。
……しかも保存性を最重視した処理だし!
いや、それらすら贅沢品なのは理解できるけど……それでも辛い。
やはり現代日本と比べると肉類は、二級品から三級品と言わざるを得なかった。
もしかして領主の息子に生まれてなかったら、とんでもなく苦労したんじゃなかろうか?
そして農作物も良くはなかった。
まず現代と同じ植物であろうと、その実情は全く違う。
何もかもが品種改良前で――つまり、基本的に苦い。それも種類によっては酷く。
なぜなら植物は、苦いのが標準の仕様だからだ。
甘く変異したのを選り分けたり、もともと美味しかったのを他所から持ち込んだり、近代からは科学知識を駆使して交配したり……そうやって農業は発展してきた。
けれど「ほんの数百年前まで農耕以前。ずっと狩猟民族してました」ではスタート地点もよいところだろう。
つまり――
育てているのは全て二級から三級品で、最初から限界も知れている
という他ない。
ただ、あらゆる作物は「完全無農薬有機栽培であり、何もかも旬に収穫」となる。
もうこれだけでワンランク上の品質ともいえた。
結果、農作物は――
美味いのはビックリするほどなのに、不味いのは果てしない
が素直な感想だ。
なら、美味しいのだけ狙えとなりそうだが、それが許されるほど品目は多くなかった。
芋類やトマトが無いのは有名だけど、さらに付け加えるのなら農産物の層は薄い。それも非常に。
つまりは三級品でもレギュラー入りだ。……そういうのに限って生産性は高かったりもするし。
総論すると「二級の肉と野菜なのでハンデは大きい」けれど「それでも美味しい料理はある」だろうか?
それに悲観的な材料ばかりでもなかった。
やはりヨーロッパ――この地はロシアかドイツ、フランス、スペインのどこかだ――特有なのか、チーズ作りが盛んなのは大きな救いだろう。
……まあ主力は羊乳のチーズで、やはり人を選ぶけれど。
それでも慣れば重要性を、よく理解できる!
チーズは日本料理におけるカツオ節に相当するからだ!
どちらも蛋白質を発酵させて旨味を強め、あらゆる料理に味のベースや出汁として使われている。
醤油、味噌、チーズ、魚醤、カツオ節……理屈は全て同じだ。発酵させる蛋白質の違いでしかない。
よく「西洋料理は何にでもチーズを入れる」と的外れな非難をされがちだけど、それは当たり前の話だろう。
日本料理に「とにかくカツオ節の味」と文句を言うようなものだ。
そして茸! キノコ類も旨味成分の観点から外せない!
当然に周囲の深い森は、豊富なキノコ類を育む。
もちろん、どれでも均等に尊く美味しい。なかでもブラウンマッシュルームと呼ばれる品種は、ほとんど椎茸だったりするから驚きだ。
カツオ節に匹敵するチーズ類、産地直送で美味しい茸、高級品ではあるが醤油も同然のガルム、二級品だろうと確かな旨味をもたらす肉類で――
希望は感じられる! 少なくとも旨味材料は、足り過ぎてるぐらいだ!
たとえば本日のメインデッシュは、僕の大好物だったりする!
ごろんと角切りにされた豚肉――おそらくバラの辺りだと思う。
そして現代日本と大きな差の見受けられない人参と玉ねぎ。
よく判らないけれど、なにかの球根。説明されても何だか判らなかったけど……とにかく、この世界で最も芋に近い!
さらに、まるで椎茸のようなブラウンマッシュルーム!
それらの具材を塩コショウ、水飴を基調とした味付けで、チーズを出汁に使っての煮物だ!
最後に隠し味として使われているガルムが嬉しい!
え? なんだか『肉じゃが』みたいだ?
ご指摘の通りで最も近いのは、どう考えても『肉じゃが』だ。それも隠し味にバターを使うようなタイプの。
ガルムは高級品で、そうそう使ってくれなかったり……生肉がなければ――家畜を〆たばかりでなければダメだったり……気軽に甘味料が使われるのも、水飴の提供を始めてからだけど――
『肉じゃが』レベルの料理なら、いくらでも存在するのだ!
といっても毎日は無理な訳で、まあ御馳走に分類される。
次に、この『レトの肉じゃが』へありつけるのは、いつの日となることか。食べながら残念な気持ちにすらなってしまう。
でも、薄っすらとした記憶を引き寄せれば、僕は三食カップラーメンや牛丼、ファーストフード、コンビニ飯なんて生活だった気がする。
なので朝夕の食事が自動的に用意される上げ膳下げ膳な生活は、もうそれだけで感涙ものだ。
そして決まりなのか全員が食堂へ会して頂くので、賑やかさも加味される。……孤食に比較したら、天と地の差だ。
ここで「全員で食堂へ」というと、首を捻られる方もおられるだろう。
普通は領主一家の食事シーンを想像したら、余人を交えない家族だけなイメージだろうし。
だが、そんな特別待遇ではなく、この世界では全員が同じ食堂で頂く。……時代では、だろうか? もしくは、この地方では?
さすがにテーブルは領主一家用――乳母であるレトはもちろん、乳きょうだいも含めて――と分かれている。
そして序列を示すかのように城詰めの
料理だってよほどの高級品――例えば母上が晩酌に嗜むワイン――でもなければ、基本的に同じだったりする。
つまり、僕が食べるパンも、
これは貴族と武家の違い……なのかな?
そもそも王や貴族は、基本的に「庶民とは違うんです」な立ち位置だった気がする。場合によっては神々の末裔とか名乗っていたりで……もはや人間ですらない。
対して武家の棟梁というのは、どこまで偉くなっても戦士階級のリーダーであって……つまりは皆の中から選ばれた人だ。
それに封建社会といっても将校や兵士は同僚でもある。一緒に戦争へ赴き、平等に命を懸け、お互いの為に死ぬ関係性だ。
なのに――
「俺だけ美味しいもの食べる! 美味い酒も! 当然に美人も独り占めだぁ!」
とやらかせば、いずれは――
「べつにリーダーは、お前じゃなくても……他の奴でも良いんだぜ?」
と三下り半を突きつけられるだろう。
そこまで行きつかなくとも、やはり忠誠心を得るのは難しくなる。結果、武装集団としては弱くなり、最後には滅亡の憂き目となるだろう。
まあ、まだ原始的な身分制度――王と戦士、庶民、ボーと呼ばれる奴隷的身分だけだからかもしれない。
いずれは戦士階級内でも格差は開いていくだろうし、貴族という概念も再整備されるはずだ。
……貴族=代々の有力者を指す言葉ではなく、血筋によって確定される形式で。おそらくは爵位制度を伴って。
そんな訳で兵士のテーブルを探せば、ジュゼッペが食事している姿も発見できる。
……ちなみに主君として臣下が食事にありつけているか、気を配っておく義務があるらしい!
もしかして兵士のテーブルでイジメられでもしてたら、僕が仲裁しなくちゃいけないのだろうか? 相手はいい歳したおっさんなのに?
兵士は薄給――週給わずか金貨一枚で、自然とエール争奪戦は激しくなる。もう違う意味で
あの猛者達を相手にジュゼッペでは話になるまい。となると僕が、なにか補填を考えてあげるべき?
……六歳にして、おっさんへ酒を配給するか悩まさせられる。どうやら領主の息子というのも緩くない。
そして僕の隣が指定席なサム義兄さんはサム義兄さんで……はやくも自分の分を食べ切ってしまい、物足りないのかクルミに取り掛かっていた。
「ちゃんと義兄ちゃんは、リュカの分も持ってきてやったぞ!」
などと恥ずかしそうに言い訳を口にするけど、まあ……少しでも多く貰えるようにだろう。
僕などはお代わりをしても断られない……どころか強制すらされるけど、サム義兄さんレベルだとストップされる。
子供では僕に次ぐほど高い身分のサム義兄さんですら、飽食は許されない。成長期だというのに!
……この時代の生産能力が低いのを窺い知れる一例だ。
しかし、『異世界リュック』でも言及されていたけれど、クルミというのはチート食材の一つだったりする。
まず何より重さ当たりのカロリーが非常に高い! なんと木の実類は、グラム当たり四カロリーもある!
カロリーメイトなど高度科学の産物でもグラム当たり五カロリー前後。カロリーの塊とされるチョコレートですら五から六カロリーだ。
どれだけ高カロリーなのか判って貰えただろうか?
さらに殻付きのままなら、なんと一年もの長期に渡って備蓄が可能だ!
月単位ですら保存可能なら素晴らしい。時代平均でも優等生といえる。
それが一年だ! 凄すぎる! 使い切らない限り、次の収穫まで保ってしまう!
いや、これは現代的な表現でいうと賞味期限だから……味の劣化に目を瞑れば、さらなる長期でも!
伊達に多産や繁栄の象徴とされていない。もう人類の原始時代を支えた立役者とすらいえる。
そしてドゥリトル城では「料理が足りなかったらクルミでも齧ってろ」となり……親愛なる我らが腹ペコ義兄さんは、毎食のように大量のクルミを消費していた。
しかし、これはサム義兄さんに不公平ではある。なぜなら大人は、エールを飲んでるからだ。
エールというのはビールの祖先と見做されているが、実は『腐りにくい大麦粥』という性格も持っていた。
ただの粥では半日も持たないけれど、どぶろくとすれば何日か保存も利く。
それでいて栄養価も低くなり過ぎはせず、パンとは違って小麦が無くても製造可能だ。
つまりは保存食であり副主食といえた。
概算でどんぶり飯一杯に匹敵する大きなパンと、やはり同じぐらいにボリュームのあるエール。
これを朝夕だから、この時代の男達はパンとエールが動力源といっても過言ではないだろう。
だが、まだサム義兄さんは数えで十歳。さすがに飲酒は――それも習慣的な飲酒は許されていない。
となればクルミで空腹を満たすしかないのだから、それを責めては酷というものだろう。
サム義兄さんの動きに応じて、いつものようにダイ義姉さんとエステルも椅子を寄せてきた。
……クルミの殻は意外と堅いので、僕やサム義兄さんを専属のクルミ割り係にするつもりだろう。
季節によっては果物などもあって、それをデザートよろしく頂くのだけど……冬ともなれば、やはり食材も少なくなる。
手軽な甘味は春までお預けだ。……ドライフルーツなどは超高級品だったりするし。
これも少し考えれば、すぐに理解できる。
例えば生のリンゴなら、それだけで何の手も掛けず一食を賄えた。場合によっては命すら繋げられる。つまり――
生産性の低い時代、リンゴ一つは最低限度な一食分と等価!
これが現代日本人では、なかなか理解できない事実だと思う。
つまるところ食料品は、なんであろうと高かった。そうでなければ餓死者が頻出したりしない。
なのに――
切ったり干したりの手間暇をかけ、さらには流通という大冒険まで!
もう確実に一食分以上の価値が生まれてしまっている。干しリンゴ一つが数食分、下手したら十数食分だ。
……エンゲル係数が五十パーセントへ届きかねない時代なのに!
そして驚くべきことにリンゴの栽培もされていない! この地は本当にヨーロッパなのか!?
これなら胡椒の方が、まだ安い。
同じ重さの金と交換などと称されたのも、それは恣意的な貿易関税を掛けられた結果という。
日常的には銀と等価値程度が相場だ。
そして一年の消費量を五十グラム程度と考えたら、銀貨十枚程度でしかない。倍で計算しても二十枚だ。
つまり、生活必需品にしては高い程度。ギリギリ庶民でも賄える範囲だろう。
だが、ドライフルーツは無理だ。自作品でもなければ、おいそれと口にできるものではなかった。
……水飴の量産をはじめようかな?
少なくとも自分やエステル、サム義兄さんとダイ義姉さんの分くらい、お菓子を賄える程度に?
もしくは食後のお茶に水飴を一匙?
とにかく「今日もクルミを割る作業が始まるお」なので、夕食は切り上げてしまおう。
二股のフォークに食べ切れなかった豚肉を突き刺し、さりげなくテーブルの下へ放る。
抜け目のないタールムが足元でうにゃうにゃ鳴き始めた。
静かに食べろ! レトに見つかる! ……というか、見つかった。
だが――
「もっー! でも、今日は勘弁して差し上げます。半分だけでもお代わりされましたし」
といった風だった。許されたらしい!
その隣に座る母上は――
「あらあら、まあまあ! 吾子は悪戯っ子ですねぇ」
な感じでニコニコだ。
……少しだけ愛が重い。もしかしたら母上は、僕が何をしようと全面肯定されるかも?
いや晩酌のワインで、ご機嫌になられてるだけ!?
なぜか赤面してしまったのを誤魔化すように、お椀に残っていた汁物を飲み干す。
ここで『お椀』に首を捻られる方もいるだろう。いや、詳しい方なら『二股のフォーク』の時点から?
しかし、驚くべきことに、この古代だか中世だか判らない推定北部ヨーロッパ地方では――
食器が使われていた! つまり、食文化が手掴みじゃない!
誰もが個人の所有物として『食事用のナイフ』『二股のフォーク』『お椀』を持っていた。
さらに何とも不思議な習慣で……食事に使った後は各自で洗って、また懐へと戻して持ち歩く方式だ。
そして西洋文化としては珍しく『お椀』へ直接に口を付ける。
……汁物に匙を使わない文化は、実のところレアだったような?
それに中世ヨーロッパは、よく手掴みが基本と話のネタにされてしまう。
しかし、それは間違ってないけれど、誇大表現でもある。
確かに手掴みの時期もありつつ、定期的に食器文化は隆盛し……残念ながら定着しなかった。……中世後期まで。
なので上ぶれ中と考えたら、おかしくはない。
しかし、それよりもカーン教徒の存在が大きいようにも思える。
このカーン教、どうやら戒律が厳しいらしく、色々な義務や禁忌があるようだった。
……それ故か毎食の前後に短い祈りを捧げるので、容易に識別可能だし。
ちなみに食事の前に祈るだけなら、その人は唯一神教徒だったりする。
食前食後に何もしなければ、それはドル教徒か無宗派だ。
……この場合の無宗派は無神論ではなく、『特定の神を信仰しない』程度の意味で。
おそらく神の存在を否定したら、もれなくキチガイ扱いされる。そういう時代だから良くも悪くもいえない。
だが、それでいて無宗派層が大多数だったりは、さすがに驚く他なかった。
……古代から中世にかけて、こんなに宗教勢力は弱かったのだろうか!?
とにかく話を戻すと――
カーン教において手掴みで食事は重大な禁忌らしく、絶対に見逃してくれない。
具体的にいうとスープを入れた寸胴鍋へ、もし手を突っ込もうものなら――
問答無用に鉄拳制裁だ!
嘘じゃない! この目で僕は見たし!
田舎から兵士として城へ上がって来たばかりの新人さんが、これぞ地方の流儀とばかりに鍋へ手を突っ込んで……本気で殴られていた!
確かに『寸胴鍋からスープの具を手で』とか『寸胴鍋で直に回し飲み』などは歓迎したくない。
だからといって殴るのはやり過ぎだろう。話せば分かると思うけれど、カーン教徒には容認できないらしかった。
うーん? やっぱり宗教は近視眼的? それとも特殊例なのだろうか?
だが、仲裁する者もいなかった! 親切な人でも理由を説明してあげるぐらいで……ある意味、最もズルい!
カーン教徒でなくとも、少し乱暴と思っても……鉄拳制裁を黙認してれば、スープ鍋への素手攻撃を防いで貰える。
……なんとも後ろ暗いWin―Winだ。
結果、手掴み派は徐々に排斥され、オフィシャルな場では『お椀』が必須となり、ついでに『二股のフォーク』も標準となった。
これが僕の想像だ。……まだ地方では『手掴み・回し飲み』が通じるみたいだし、それほど見当も外れていないと思う。
無宗派で通せるなら万々歳だし、食器文化も大歓迎だけど……疑問も残る。
ドル教は、なんとなく想像できなくもなかった。
やはり原始的な自然信仰や日本の神道と似通った要素が多い。また布教や民衆への干渉より、呪いや儀式が中心となっている。
もう「なるほど普遍的古代宗教だ」という他ない。
それでいながら政治的発言権を失っていて――というか母上に排斥されていて、かなり立場を危うくしていた。
まあ僕にしたら「諦めて早々に殺すべき」と宣託されてたそうだし、こちらから配慮してやる必要は感じない。
このまま程よく政教分離を推し進めれば良いように思える。……とある理由で文官達からも煙たがられてるし。
そして唯一神教は……世界でもっとも有名な聖人が興した例のアレだろう。
つまり、いま現在は紀元後だった?
それ以外の情報は個人的に、どうでも良いというか――
「どうして覚醒したら話し掛けてくるように?」
と皮肉な気分にさせられつつも――
「こんなに政治力も発言力もない集団だった?」
と驚きを隠せなかった。
蔑まれてはいないけれど、決して敬われてもいない。
この地で一番有名な新興宗教。その程度の扱い、発言権、政治力といえる。……べつに悪い宗教でもないのになぁ。
もしかしたら紀元後といっても、まだ砂漠の時代だったり?
だが、この両者よりカーン教は謎が多かった。
全階層に散見できるけれど、なかでもボーと呼ばれる奴隷階級に篤く信仰されている……のかな?
かといって社会的弱者中心ではなく、
……なんとも捉えどころがない感じだ
そして僕の見分が狭いのか、地球での何某と同定できる宗教が思い付かなかった。強いていうのなら仏教に近い雰囲気か。
……一度は成立したものの潰えて、そのまま歴史の闇へ埋もれていった宗教は、数え切れないほど存在する。
それらのうち一つだろうか?
さらに特定はできないのだけれど……何か足りない気がする。それも重大な何かが。
そんなことを考えながら、ぼんやりと
「あいつらを呼ぶかい、リュカ?」
とサム義兄さんが気を利かせてくれていた。
……その表情から窺えるのは保護者的父性が半分、歳相応の葛藤が半分だろうか?
つまり――
「引っ込み思案な義弟を子供のコミュニティへ仲立ちするのは、自分の役目!」
な意気込みに――
「どうしたらリュカは皆と仲良く!?」
という不安だ。
……うん、こりゃ失敗だったね。油断してた。
もちろんというか当然というか……僕達きょうだい以外にも、この城には大勢の子供がいる。
城というのは、色々な人の家でもあるからだ。
といっても半数近くは独身の住み込みだし、結婚していても家庭は城下だったりだけど……一部の者は、夫婦や家族ぐるみで城に滞在している。
例えば留守居役の
そして城詰めを命じたのなら社宅――城に部屋を用意してあげなきゃならない。
文官だって高給取りでもなければ、城下へ別宅を構えるのは不可能だ。やはり同じように城で家族と一緒に暮らす。
よって軍事施設――城だろうと子供はいるし、当然にコミュニティも形成されている。
そして実のところ僕は、ガキ大将として君臨を望まれていた。それもジャイアンとスネ夫を足して二で割らないレベルで。
これは逆の立場で考えたら判りやすいと思う。
御曹司と幼馴染になれる!
古代から中世にかけて、これ以上のコネがあり得るだろうか?
確かに僕の右腕的立場は、サム義兄さんに予約されている。しかし、左腕的立場は?
そしてチャンスは男の子にだけではない。女の子へも開かれている。
家格的に正妻は望めなかろうと……誰でも側室となるのは可能だ。ましてや世継でも身籠った暁には、さらなる栄達すら!
どれほど偉大な皇帝や王だろうと、会ったことない者と情を交わせやしない。血筋や見た目よりも、身近にいる方がチャンスはある。
ましてや幼馴染ともなれば!
……モテモテのスーパーアイドルだろうと結局は、地元の同級生と結ばれがちだし。
そして御曹司側にもメリットはある。
男の子だろうと女の子だろうと……幼少の頃から忠誠心を育んだ、決して代替の利かない人材を得られるからだ。
これは史実にも枚挙の暇がない。
日本でも、かの戦国覇者信長などはガキ大将を頑張り過ぎて、後世に色々と言われちゃっている。
しかし、その頃に得た人材は忠臣として大活躍もした。
そもそも信長と秀吉ですら、出会ったのは二人が十九歳と十七歳の頃だ。
つまりは大学二年生と高三な感じで……僕にいわせたら、まだ社会へ出る前の知り合いに思える。
ようするに武家の棟梁には、幼馴染の子分が必要不可欠なのだろう。たぶん。
が、そうと判っていても僕には厳しい。
さすがに――
「どの石を引っ繰り返したら、より多くのダンゴ虫を捕まえられるか熱く議論」
「『うんこ』や『ちんちん』と連呼し合って果てなく大爆笑」
「誰よりも完全なセミの抜け殻を得るべく、飽きることなく城中を探索」
などは無理だ。
いや、そういう時期は僕にもあったので否定はしないけど……その輪に入り込むのは難門すぎる。
……向こうだって、こんな中身はおっさんに混ざられたら困惑するだろうし。
しかし、サム義兄さんの立場では「はい、そうですか」と肯く訳にはいかない。
おそらく「なんとかしろよ、お前の乳兄弟だろ?」と、各方面から圧力も掛けられている。
城の男どもは、なんとしてでも僕をガキ大将に――子供世代のリーダーにさせたいからだ。
それで僕の将器も量れるし、子供達はコネを獲得し、大人達も安心できる。
結果、可哀そうなことにサム義兄さんは、中間管理職的苦労を背負わされていた。
……まだ数えで十歳なのに!
僕を含めて大人は、自分の才覚で問題解決しろよと思わなくもないけれど……僕自身からにして、ジュゼッペと何か作っている方が落ち着くという体たらくだ。
とてもじゃないけど、誰かを非難なんてできそうもない。
そして――
「え? いや……べつに……あっちのグループ見てたんじゃなくて……ちょっと今日は食べ過ぎちゃって……少し胃もたれするなって……えへへ」
などと誤魔化すのが常となっていた。
……すまない、サム義兄さん!
きっと僕ら全員が十代となる頃には、自然と関係構築も進むような気がするんだ!
もしくは子供グループの中へ入って『うんこ、ちんちん』と連呼する覚悟が!
さすがに判ってきたのか仏頂面となっていたけど……僕には判ってる! サム義兄さんなら許してくれると!
え? 年下の義兄に全開で甘えるのは?
だが、ちょっと待って欲しい。それが許されるのが――
家族といふもの! 僕は酷すぎやしない! 少しアレなだけだ!
……などと葛藤していたら、心配してくれたのかエステルが頭を撫でてくれた。どこか痛がってると思ったようだ。
嗚呼、素直で優しい義妹は最高だ! こんなにも屑い義兄だろうと全肯定してくれるし!
でも、どうしてエステルは、僕が本気で落ち込んでたり悩んでたり判るんだろう? ……謎だ。
しかし――
「なにをボンヤリしてるのよ! さっさとクルミを割って頂戴! 待ちくたびれちゃうじゃない!」
とダイ義姉さんはスパルタだ。
……どうせ一つか二つしか食べない癖に! そして自分でもできる癖に!
なぜかダイ義姉さんは『僕にクルミを割らせて食べること』に喜びを見出している。
もう意味不明でしかない! かくも姉なるは暴君!? ちょっと不公平だろう!
「……いま、やるところだったんだよ」
「そうだったの? じゃ、急いでね」
と、ご丁寧にもクルミ割り器を手渡される。
いくら義姉さんでも、さすがに屈辱的だ! 義弟は下僕じゃないんだぞ! ……ありがとうございます?!
もちろん何も言い返さず、日課のクルミ割りを始めた。
どうせダイ義姉さんは一つ二つで満足する。エステルだって似たようなものだ。
さすがにサム義兄さんの分は多いけれど……親愛なる我らが長兄の為なら、この程度は労苦ですらない。
それに家族団欒の時間ともいえた。
きょうだい四人と一匹、食後は集まってクルミを食べたり、なにか娯楽――双六やチェスに似たゲームなど、それなりに存在した――に興じたり、誰かの奏でる音楽へ耳を傾けたりで、就寝までを過ごす。
これは僕たち家族だけでなく、城の誰も彼もが同じだ。
城の食堂は食後に談話室へと変わり、それぞれ思い思いに寛ぐ。
さすがに最初は奇妙な風習にも思えた。
しかし、素直に利点へ注目すれば、なるほど生活の知恵だと唸るほかない。もう当然すぎるほどの節約術だ。
どうやって賄おうと光熱費は高い。それは技術レベルに由来するので、いかんともし難かった。
……母上のように松明を排して蝋燭中心だと、さすがに少し割高だけど。
しかし、一つの蝋燭を――灯した明かりを何人かでシュアすると、かなり対費用効果は変わる。
もし一人だけで恩恵を被るのなら、それは放蕩レベルの贅沢だろう。
だが、数人では? いやさ、十数人でなら?
そして当然に問題は灯だけで留まらない。暖房でも同じロジックは通じる。
いま現在も城の食堂には、かなりの蝋燭が灯されていた。
この経費を計算したら、とんでもない数字となるはずだ。……もしかしたら秒速での方が把握しやすいほどに?
だが、それでも一人当たりの経費へ直せば安かった。
数人で蝋燭一本程度な割合だろうから、当たり前といったら当たり前か。いくら生産性が低いといっても、そのレベルまで効率を良くすれば安くもできる。
結局のところ人は――人類は群れるという戦術を、とことん利用して繁栄した生物なんだと思う。
おそらく独居生活なんて近世となってから。早くとも近代から可能となった一時的流行に過ぎない。
それに悪い光景でもなかった。
……パッと見は、蛮族の荒々しい宴と見間違えかねなくてもだ。
早くも男達は本格的な酒盛りへシフトしている。
そして飲みながら飽きもせず馬鹿話を繰り返したり、双六や盤上ゲームに興じたりだ。
……結局のところ男のアフターファイブは、何千年も変わっていないのだろう!
対するに女の人達は暖炉の傍へ陣取りながら、手慰めとばかりに縫物やら編み物やらを始めていた。
……女性は長時間労働となりがちなのも、これまた何千年も続いているらしい。
しかし、何とかするべきか母上に相談したら――
「あれは皆でお喋りをする口実なのです。放っておいてあげなさい」
と諭された。
なるほど。女性はお喋りでストレス解消するという。そういうアレか?
よく観察していれば酒の好きな女性はエールを飲みながらだったりで、ギリギリ娯楽と見做せなくもない。
もちろん子供達だって恩恵を被っている。
男の子達は――
「うんこ!」
「ちんこ!」
「ゲラゲラ!」
と傍から見たら、まるで宴会ゲームの真っ最中だ。素面なのに!
……本当に男の子は進化してない。現代日本の大学生すら同レベルだろう!
女の子達は、母親達の真似なのか……なにかビーズのようなもので、なにやら熱心に作っていた。もしくは素材となるビーズ自体を。
『女の子は最初から女に生まれる』は真実だった?
手慰みとお喋り、それへオシャレの努力が追加されて最強に楽しい?
やはり現代人の感性では、ひどく原始的で退屈に思える。
そして放っておけば、おそらく百年経っても変わらない。百一年目の夜にも、きっと同じように集まってるだろう。
だが、転生して――転生して意識を覚醒させて以来、文明と幸福の関係について考えさせられる。
『昔は良かった』はずがない。
これが絶対確実の真実だろう。その歩みが遅くて判り難かろうと、人は進歩し続けてきた。
かといって、発展したら正されるとも断言はできない。それも事実だ。
……城の皆が野蛮に見えたとして、その文明人様とやらはお偉い?
皆が団欒する様子を、軽視してはならなかった。
なぜなら僕は、それを良くすることも……台無しとすることもできる。
もし壊してしまったら元へは戻せない。決まりや習慣などは勿論、誰かの命も。
となれば現代知識の導入には、繊細な注意が――
そこでレトに話し掛けられ、思索から引き戻された。
「若様! お薬をお持ちしましたよ!」
……あれぇ、なに言ってっだ
しかし、レトは愛用の薬箱を開けて――
「食べ過ぎのお薬は……えっと……――」
と探し始めていた。
……嗚呼っ! はいっ! 確かに「食べ過ぎたって」口走りましたわっ!
「はい! 食べ過ぎのお薬ですよ、若様!」
だが、そうレトが差し出したのは、やや黄色味を帯びた結晶にしか見えなかった。
さらにサム義兄さんが――
「ゲップ石だ!」
と嬉しそうで不吉すぎる。
ああ、これ男の子受けする感じ? ………………嫌な予感しかしない!
ぶっちぎりに信用できないものといったら、この世界の薬学と医学だ。
これは決して偏見などではない! 事実だ! 信用してくれていい!
例えば有名な治療法に瀉血というものがある。
これは――
体調不良や病気とは体内バランスの崩れが原因であり、故意に出血させて正す
などという理屈で行われるが、もちろん医学的には出鱈目だ。
無意味どころか、やらないほうがマシと立証もされている。まさに百害あって一利なしだ。
しかし、科学が発展してない時代、とりあえずの理屈があれば受け入れられてしまう。
……それでいて否定するのには、問答無用レベルな説得力が必要だし。
そして僕の立場になって考えてもみて欲しい。
何処かを打ち身で腫らしでもしたら、「適当なところを切開して瀉血しましょう」と言い出されるのだ!
あるいは頭痛だったら、こめかみの辺りを!
薬学は薬学で恐ろしいことに人肉――『ヒトに由来する生薬』すら扱っている!
これは全世界的事象だから、まさかの世界標準だ!
最先端科学ですら活用しているので、全くの出鱈目ではないのだけれど……さすがに悍ましい。
また九割方は薬効のない迷信に過ぎず、どちらかといえば調達手段の方が害悪だ。
という訳で僕にとっての恐怖の象徴、レトの薬箱だけれど……そう馬鹿にもできない。
まず柳の葉っぱに感心だ。
これは煮出して鎮痛剤とするが、なんと科学的に薬効を認められる。アスピリンの主成分だからだ。
そしてバターだろうか?
なぜか食用してないバターも、薬箱では常連だ。
あかぎれや手荒れ、火傷、唇のひび割れなどの治療に使う。現代でも代用されるくらいだから、まあ正しい部類か。
……民間療法でも、それなりに頼れる証拠といえる?
他にも色々な草花を干したものが、大事に収められていたりで……薬効は期待できなくとも、大きな害はない……と思いたい。
しかし、『イモリの黒焼き』や『蝙蝠の羽根』、『蛙の干物』なども見え隠れしている。正直、コワイ。
もしかしたらキリスト教が躍起になって排除した魔女の、いわば原型に当たるのかもしれなかった。
などと考えている間にも、サム義兄さんはハイテンションだ。
「ゲップ石だぞ、リュカ! うひひ……たくさん出るんだ! ゲップがいっぱい!」
あー! もー! どうして男の子は、こういうのが好きで好きで堪らないの!?
こうなったら『ゲップ石』で笑いを取っちゃうか? おそらく薬害は無いだろうし――
……うん? なんだろう? 引っ掛かるぞ?
・それは食べ過ぎの薬として使われる
・見た目は黄色みを帯びた結晶
・副作用として?ゲップがたくさん出る
……残念ながら思い当たらない。
でも、喉元まで答えは出かかっている感じだ! おそらく僕は知ってる! でも、なにを!?
意を決し、少しだけ『ゲップ石』を齧る。
……微かに苦い? いや、しょっぱいか?
だが、それよりも――
口の中でシュワっと溶けた!? まるでラムネ菓子だ! これ……もしかしたら!?
卓上へ置かれていたレモンを半分に切り、残った『ゲップ石』の上で果汁を絞る!
すると――
勢いよく泡が発生した!
しかも、その頻度や泡の大きさに見覚えがある! 炭酸水の泡とそっくりだ!
間違いない! これは重曹だ! それも天然物らしいから――
トロナ石か!
重曹を口にすれば、たしかに胃酸と反応してゲップが大量に出る。胃の中で二酸化炭素が発生するからだ。
これは胃酸過多や胸やけなどの症状緩和に有効だし、必ずではないが大食いは胃酸過多を引き起こすこともある。
……薬学的には当たらずも遠からずで、ちょっと惜しい?
いや、胃もたれ自体が口から出まかせだから、どのみち駄目か!?
「しかし、なんだって薬として……重曹なら消臭や除菌、柔軟剤として利用の方が……それに歯磨き粉も……重曹あるのなら重曹の方が良いのに。僅かながら再石灰化も促すし……――」
と頭を抱えかけたら、逆に驚かれた。
「ええ!? 『ゲップ石』って……食べたらゲップがでるだけじゃ!?」
……なるほど。落ち着こう。
「もしかして『ゲップ石』を――この『トロナ石』を発見したのって、わりと最近?」
「そうなんですか? あたしは領内で採れるとしか――」
とレトが答えかけたところで、時の氏神が現れた。
「若! 『ゲップ石』は『裂け目』が出来てからですぞ! なので――英霊様方がカサエーめを打倒した後、建国王の治世より前ですな!」
と
それでも
たしかカサエーは帝国の指導者で、この地方へ親征を試みた人物だ。
……攻め込まれた側が、いまだ名前を言い伝えるレベルに強大で強力な。
しかし、手強い侵略者を前に御先祖達は一致団結し、このカサエー率いる帝国軍を退けた。
負けたら全員が奴隷へ落とされる。どうにも帝国はそういう相手らしいから、もう共闘でもするしかない。
そして勝利後は、お決まりの吸収や合併を繰り返して国へと発展し……そのうちの一つが我が国だったりする。
つまり、ギリギリ歴史の範疇だ。伝説とか神話レベルに昔の話ではない。数字へ直すと推定二、三百年前程度だろうか?
それを踏まえると――
この地の人々は『トロナ石』を発見したものの、まだ有効な活用方法を手探りしている最中だった。
そして人類が未知の物を前に、まず最初に試す対応をした――実際に食べてみた結果、制酸薬であると認識した……のかな?
ちなみに人類は、ほとんど何でも一度は口へ入れている。
たとえば漆喰の材料となる珪藻土は、食べられるので有名だ。……消化されずに出てくるのを、食べられるというのであれば。
しかし、それが判っているのは、誰かが試した証拠でもある。見た目は完全に土な珪藻土を。
が、転生者である僕としては、せっかくの『トロナ石』という僥倖なのだから、暢気に食べてる場合じゃない!
例の定番なアレ! そして当然の権利としてアレを量産するに決まっていた!
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