下巻

prologue【失くした威光】

 いつか成るのだと指差し、目指した場所には、夢を包んだ暗闇があった。それを信じ、受け入れるには相当の時間が必要だと覚悟をしていた。しかし、そこまでの強い覚悟は不必要だった。

 難しく考えすぎていたのかもしれない。暗闇を恐れて夢を捨てるなど、僕ではないと思った。例え、闇に僕までもが包まれてしまうとしても。きっと僕は手を伸ばしただろう。

 夢の為ならば、何だってやる事が出来た。勉学も、苦手な人付き合いだって、我慢してやってのけた。なのに……。

 僕が憧れた夢は、ちっぽけな事故で光を失い、消滅した。そして、確定した事実。

 目指していたのは、きっと僕が人間としてちっぽけだったからだ。だから、ちっぽけな夢を目指してしまったのだ。

 そう、気付いてしまった時は、泣いてしまうと思っていた。しかし、涙など出ては来なかった。それどころか、笑いが溢れてしまった程だ。そして、全てを諦めかけた。世界を愛したという事実も捨て、空を目指したという自分を捨て、犠牲にする夢を捨てようと決心した。止めて欲しいと頼んではいない。然し、そんな僕に手を差し伸ばす人物が現れる。

 遠慮をしたかった。拒否をしたかった。その筈だったが、僕は差し伸ばされた手を、容易く握った。

 温かく、優しさが溢れてくるその体温は、冷え切ってしまった僕の心を解かしていくような感じがした。それでも、僕の中から人を疑う心は無くならなかった。



 間違った道を進んでいるのか、と錯覚をした程、僕は夢に手を伸ばし続けた。それが何時か、自分の為になるのかと聞かれたら、きっと僕は答えられないだろう。

 失っても見据え、見えなくなっても想う。それだけの事で、僕が向かわなくても、夢が現れてくれると過信していた。そして、それが裏切りに変わると、僕は狂った人間になると、自分でも分かっていた。だからこそ、諦め切れなかった。目を離せなくなった。

 見捨てられるという心配や不安を抱いたが、普段の生活に支障は無かった。軽く考えていたからだろう。それはそれで良かったのかもしれない。周囲に気を利かせるなど、したくなかった。僕の胸の内を、伝えたくなかった。

 心を塞いだ僕は、新たな光を探し始めた。


 我は受け継がれし未知を探す者なり。

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