4日目

初めて夜の公園に来た。


今朝、両親に「彼女」と花火大会に行きたいと言うと、あっさりと許可を出されてしまった。なんでも、祖父母は花火などの大きな音が苦手らしく、両親は祖父母に付き添うため外出しないらしい。「彼女」が保護者代わりになってくれるのなら行っていいと言われた。


いつもとは違う、たった2つの街灯が照らす公園をビー玉ごしに眺めた。ビー玉ごしに「彼女」が“誰か”とやって来るのが見えた。



目からビー玉を外した。


「彼女」は一人だった。



夜の黒にワンピースの白が浮かんだ。

「彼女」はいつも同じ服装だった。


浴衣ではないのかと聞く前に、「彼女」が口を開いた。


『待たせちゃってごめんね。さ、観に行こうか。』

「...うん。」

『?...どうかしたの?』

「ううん、何でもない。」


なぜか、「彼女」の正体に関する事を質問してはいけないように思えた。聞いて、知ってしまえば、「彼女」は離れていってしまうように感じた。



2人で並んで歩いた。

手は繋がなかった。

提灯がつくる赤い光の道は、「僕」を知らないどこかへ誘っているようだった。



花火を観に来た人々が集まる場所とは少し離れた場所に並んで座った。花火がよく見えるとっておきの場所なのだと「彼女」は言った。程なくして、花火が打ち上げられた。


大小色様々な光が空に浮かんだ。

光の花が咲いた。


全てを鮮やかに染めあげる様に見惚れていた「僕」は、ふと「彼女」に目をやり、困惑した。


「彼女」は懐かしそうに花火を見上げていた。

けれどその表情はどこか哀しそうにも見え、「僕」は声をかけることができなかった。



そのまま時間は過ぎ、最後の一発が打ち上げられ、花火大会は幕を閉じた。


『すごかったね。昔はこんなじゃなかったのよ。もっと花火は小さくて、数も多くなかったの。あれはあれでよかったなぁ...。』

「今のは嫌なの?綺麗なのに?」

『嫌じゃないわ。とっても綺麗だもの。でもね、なんだか寂しくなっちゃう。』

「??」


「僕」には「彼女」が寂しいと言った理由がわからなかった。首を傾げる「僕」に「彼女」は微笑み、難しいよね、と言った。



来た道を行きと同じように並んで帰った。

また、手は繋がなかった。

「僕」は歩きながら考え、決めた。


公園に着いた。

また同じように明日会う約束をした後、「僕」は意を決して言葉にした。



「...あの、聞きたいことがあるんだけど...。」

『なあに?』

「...おねぇちゃんって、人、なの?」

『...え?』

「えっと、その...、なんていうか、その...ほんとは誰なんだろうって...。いつも同じ服だし、ビー玉で周り見てると来るし......っ!」

『ぁはは...気付いちゃったんだ...。』


「彼女」の顔を見ながら言うことのできなかった「僕」は、下を向いていた顔を「彼女」に向け、驚き、一歩後ずさった。「僕」は「彼女」が恐ろしく思えた。


「彼女」は諦めたような目をして笑顔で言った。


『じゃあ、もう会えないね。』


「え...なんで...?」

『じゃあね。ばいばい。』

「待って!」


理由を言うことなく「彼女」は「僕」に背を向けた。遠ざかる「彼女」はどこか悲しげに見えた。「僕」はそんな「彼女」を追いかけることができなかった。


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